05:求める 声と細目


「つきちゃんから離れてよ」
「なんで君にそんな事言われなくちゃいけないの」
「ふ、2人共!」


そんなやり取りをもう10分くらいはしてる。私はつきちゃんの右手を、赤毛の男の子は左手を掴んでお互い離そうとしなかった。



「いい加減にしないか、2人共」
「こればっかりは譲らない!!」
「僕も譲る気はないよ。月子は僕のなんだから」
「つきちゃんは私のだもん!君みたいな得体の知れない人につきちゃんは渡さない!」
「…俺が言うのも何だけどよ、葵突っ掛かりすぎじゃね?」



事の発端は今日の朝。クラスメートが天文科に転入生が来たって話してたのを聞いたから、ちょっと偵察しにお邪魔したのが事のきっかけだった。赤毛の男の子はいきなりつきちゃんの頬っぺにチューし始めるし、つきちゃんにずっとベッタリだし。



「葵ちゃんも羊くんも!仲良くしようよ」
「つきちゃんはこんな変態な人側に置いとくの!?」
「葵!!」
「っ…!」
「初めて会った人にそんな事言っちゃダメだろ?」



天文科の人達がだんだんざわつき始める。違う、私が悪いんじゃないよ。私、つきちゃんが危ない目に合わないか心配しただけなのに…。



「…葵ちゃん?」
「…−−いい」
「葵?」
「もういいッ!!皆なんか、大嫌い!!」
「なっ、おい葵!?」



天文科の教室を飛び出して私はひたすら走った。途中、龍や弥彦に声をかけられたけど全部無視。体力が切れるまで走り続けて着いたのはグランドの土手だった。



「はっ…はぁ…久しぶりに、全力疾走した〜」
「あれ?葵ちゃーん」
「は?……」



気安く私の名前を呼んでくる知らない男の人。ネクタイの色からして3年生だな。



「なに、今1人?」
「違います」
「違うって、連れなんてどこにもいないけど」
「私に構わないでください!」
「そんな事言わないでさー」
「いい加減にっ、」



男の人が私の腕を掴んだ瞬間、後ろから急に手が伸びてきて男の人の腕を強く掴んだ。驚いて振り返ればさっきまでつきちゃんの取り合いをしてた赤毛の男の子だった。



「彼女、月子の大事な友達だから手を出さないでくれる?」
「いっ!?いてぇいてぇ!わかった…わかったから離せ!!」
「ふん…じゃあさっさと消えてよね」
「ひぃ…」



赤毛の男の子が余程怖かったのか3年生の人は足早に去って行った。



「…あり、がとう」
「どういたしまして。それと…さっきはごめん」
「え…?」
「ちょっと意地になりすぎたよ。君は月子の親友なんだろ?」
「うん。つきちゃんは私の大切な親友だよ」
「それに君は女の子だしね。丁重に扱うべきだった」



赤毛の男の子もとい羊くんは、本当はとてもいい人なんだなって思った。私だって悪いのにこうしてわざわざ謝りにきてくれたんだもん。なんか、流石つきちゃんのお友達って感じ。



「紫乃葵、だっけ?」
「うん」
「僕は土萌羊。羊でいいから」
「羊くん…」
「君の事、葵って呼んでも構わないよね?」
「うん!」



新しくできたお友達。羊くんと一緒に天文科に行けばつきちゃんが涙目になりながら抱き着いてきて、ちょっとビックリした。そう言えば私さっき大嫌いって叫んじゃったんだよね。これ、錫也のお説教あるな〜…。




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