月の精霊


「やあやあこんばんは」

「月の綺麗な夜ですね。それでそれは何の物の怪?」

「月の綺麗な夜に現れる精霊さまだよー」

桶を被って顔の見えないその人はふらふら揺れる足でこちらに駆け寄ってきた。
声に髪に制服の色、それが誰かはよく知っている。かすかに酒の匂いが鼻をついた。

「勘ちゃん呑んできた?」

「精霊さまだよ」

「暑いでしょ、その桶脱ぎなよ。首まで赤くなってる」

桶に手をかけると友人は嫌嫌と首を横に振った。

「首がもげちゃうからだめ」

うなだれるように俺の肩にもたれかかる。
桶は固く、少し動いてぶつかる度にその箇所に小さく鋭い痛みが走った。

「ほらはずして」

「やなんだよう」

そこではたと、桶から雫が滴っていることに気づく。首まで赤いのは酒の所為だけではないらしい。

「精霊さまが泣くから月に雲がかかってきたよ」

「だったら俺はもうすぐ消えてしまうね」

ぽすぽすと背中を叩いてやると、すぐに精霊さまは眠りについた。




お題診断さまをお借りしました。
『五いについて「迷子の二本足」「ぽろぽろぽろ」「バケツかぶって馬鹿のフリ」で妄想。』



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