賞味期限


自分の賞味期限が知りたかったのだと、親指に包帯を巻かれながら彼は言った。
噛み千切られて血を滲ませる酷く痛々しい親指を最初に発見したのはまごうかたなき俺で、そうして愕然としている俺に普段と同じふにゃりとした笑顔を見せたのはまごうかたなき彼だった。

つやつやした柔らかい髪に深く丸い瞳、触れればもちりと掌に馴染む肌は至って健康的な事を示していて、彼の言う賞味期限といったものは未だ暫くは来ないであろうと俺は思った。
食材を極力大切に頂いている俺でも賞味期限のやってきた品々を知らない訳は無い。すっかり腐ってしまい悪臭を放つそれは最終的に生ゴミへの仲間入りを果たす。
彼は其れを恐れたのか。
いつも微かに甘い匂いをさせていて、楽しそうに微笑みながら踊る様に俺の少し前を歩く彼が、そんな事を恐れると言うのか。

味を尋ねた俺に彼は困ったみたいな顔で一言「おいしくはなかった」とだけ教えてくれた。
そして、普段と同じ様に、ぎゅうと俺に抱きつく。
もしゃもしゃと頭を撫ぜれば心地よさそうに頬をすりつけてくる彼からは、いつもの甘い匂いがした。

じわり。じわり。
彼は俺が腐り落ちるのを待っているのだ。
しかし相手より先に自分が腐り落ちてしまうのが怖いのは、お互い様であった。



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