耽溺
「いすけくん」
「……タカ丸さん」
足音と、自分を呼ぶ耳慣れた声がして、ふと振り向く。
そこに居た想い人はふにゃりと顔を歪ませて、今にも泣き出しそうになっていた。
あわてて駆け寄って頭を撫でてやると、うう、と悲しげに喉を鳴らす。
「そばに居てって言ったのに」
「ごめんなさい、ちょっと掃除を……」
「だって、だって、ずっと一緒って言ったのに」
「……タカ丸さん……」
こらえきれずに溢れた涙が頬をつたって落ちていく様子は見るに耐えなくて、ぎゅうと抱きしめると、嗚咽まじりに「伊助くん、伊助くん」と繰り返された。
「ごめんなさいタカ丸さん、僕が居ますから、」
ね、泣かないで。
安心させるように、そっと諭すように。
タカ丸さんは僕をじいと見つめて、涙をはたはたとこぼしたまま柔らかく微笑んだ。
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伊助くんがいないと生きてけないタカ丸さんが書きたかったような。