最終章


「いつになったら世界は滅ぶんだろう」

そんな言葉を聞き私はふと天を仰いだ。
もうすぐ夜になろうとする世界は、彼の問いをあしらうように、淡黄や桃色や薄紫の入り混じった綺麗な空を見せびらかしていた。
彼も真似して上を向き暫く空を眺めていたけれど、やがて俯く。

「あと一月で滅ぶなら、嬉しい。半年くらい待ってもいい。そうだなあ、一年は、耐えられるかもしれない。」

人形を思わせる表情で淡々と吐き出すその姿は、あまり彼らしくはなかった。
私は「ふむ」と少し考え込んでから、彼の話に口をはさんだ。

「どうして滅んで欲しいんだ」

彼は私をじいと見つめてきたけれど、その奥の向こう側の何かを見つめている様で。
向こう側の何かは解らず、彼が何を考えているのかも私には解らなかった。
その内ぱかりと口を開けたかと思えば、一度閉じ、しかし再度開く。

「俺が死んだあとに、世界が残ってるのは、やだ」

現れた表情に「ああ泣く」と少しばかり焦った私だったが、彼の双眸から粒が流れ出る事は無かった。
こらえているのか、これといって辛いわけではないのか。矢張り解らない。

「そんなに早く死ぬのか」

「きっともうすぐ、世界と一緒に」

「そうか」

そう言うなら、そうなんだろう。私は確りと頷いて相槌を打った。
彼は繰り返す。

「いつになったら、世界は、滅ぶんだろう」

もう紺瑠璃に染まろうとする空を見上げる丸い瞳には、殺気も憎しみも、込められてはいないように見えた。




できることなら鉢屋と空に逃げたい勘ちゃん。
勘ちゃんのすごく弱い尾鉢がすき。



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