君釣り


其処はとても高い所だった。
何故ならば階段を本当に本当にうんと沢山登った事をこの足が覚えているからだ。

しかし下を見れば小さな町並みが広がっているという訳ではなく、眼球の機能が意味を全て失くす様な暗闇が、俺の半身を呑み込みながら只々居座っていた。
手に持っていた綱を下ろすと、それは何処まで下りて行ってしまったのかわからなかった。

ぼうとして佇んでいれば綱が何やら重たい。
ずりずりと布の擦れる音がする。下方から微かに声が響く。

「引っ張って」

俺は大して驚かない自分に気が付いた。
腰を据え、肩から腕、手首、指先までありったけの力を込めて声の主を引き上げてやる。

……綱の先には誰一人何一つ引っ付いてはおらず、潮の香りと何かの水が染み込んでいるだけだった。

俺は小さく小さく、「また駄目だった」と呟き、階段を駆け降りるのだ。




ろじかわいい!



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