蔵の近くに綾部が居るのは分かっていた。
穴を掘っているのはいつものことだし、委員会で使う学園長先生の庵の辺りは安全地帯に入るから気にしていなかった。保健委員には悪いが、うちの子たちが外にある罠にはまらないのはありがたい。
つらつら考えながら片付けを済ませて外に出る。
「鉢屋先輩は小さい子がお好きなのですか」
唐突に、学園一の不思議ちゃんが言った。穴掘り小僧、天才トラパーの異名をとる綾部喜八郎。
穴は掘り終わったのだろうか。いつになっても考えの読めない後輩だ。
「誤解を招く言い方だな。後輩は皆好きだよ」
私も後輩なのですが、と穴の中からのんびりと言う。
「お前は私たちの学年を先輩と思ったことがあるのか…」
斉藤タカ丸を除いて委員会としての繋がりもない。
「はあ。年上ですからねぇ。一応は」
「私は四年生、嫌いじゃないが。それで、その誤解を招く言い方で私に何が聞きたかったんだ、綾部?」
私が小さい子が大好きみたいじゃないか、いや勿論大好きだけれども。
「じゃあ言い方を変えましょう。鉢屋先輩は一年は組の黒木がお好きですか」
さすがい組というのはなかなか侮れない、と心に刻みつけて応える。よく見ている、気をつけなければ。
「勿論可愛い後輩だよ」
綾部の表情は読み取れない。


「勿論可愛い後輩だよ」
動揺なんて欠片も見せずに彼はそう言い切った。
さすが天才、こんなことで感情は見せないか。作法でもないのに立花先輩のお気に入りなだけはある。
ひとつ年が上なだけの、遠い天才。
「それじゃあ僕にしませんか」
穴の中から見上げて、首を傾げる。悪い話じゃないでしょう。
「こう見えて僕は優秀だし、強いですよ。ね」
今だって体力だけなら負けないし、これから僕はもっと強くなる。
すぐに追いついて見せる。あの子が四年かかるものを、一年かからず超えて見せる。
「からかうのは私の特技だよ、綾部」
落ち着いた声で静かに言って、鉢屋先輩は笑う。
(僕のことなんて眼中にないんでしょう?)
知っている、だけど諦められない。
穴から覗いたとき空に見える鳥のような、そんな人だから。
いつも届くといいのにと願いながら、きちんと手も伸ばせないでいる。
「五年生の特技も頂こうと思ったのですが」
「どうしてそう末恐ろしいことを言うか!」
でもお前が将来有望なのは確かだな、と。そうやってまた笑うから、僕は。
(……僕は)


あんな奴の何が良いんでしょう、と僕は膝に乗った綾部先輩の頭を撫でながら言った。
長く緩やかな曲線を描く髪が僕の膝と床に広がっている。猫のように丸まって黙ったまま、綾部先輩は動かない。
鉢屋先輩につれなくされたのだ、そうに決まっている。泥だらけのまま作法の委員会室に来て、そのままこれだ。
誰に何を言われたってけろっとしているくせに。たとえ立花先輩に怒られても、平先輩にぐだぐだ説教されても気にしないくせに。
「あやべせんぱい」
名前を呼んで、頭を撫でて、僕は結局何もすることができない。
鉢屋先輩はあんな一年は組の、何が良いんでしょう。貴方の方がこんなに綺麗で優秀なのに。あんな奴よりずっとずっと。
(僕の方が好きなのに)


それは秘密の恋でした




小町様に頂いてしまいました!!
伝→綾→鉢→庄、です、って、す、すてきなごしゅみをしてらっしゃる・・・!ありがとうございます!だいすきです!!
小町さんの文は私の語彙では上手く伝えきれないほど魅力的なものがたくさん詰まっていてはわうおあああ



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