溺死


三郎、盗ったな、と。
目も鼻も口もないまっさらな顔だけれど、きっとものすごく怒っているのであろう様子で、雷蔵はそう言った。

「盗ってないよ、今日は兵助の顔を盗った。もう返したけど」

明日ははちの顔を盗るつもりだ。雷蔵の顔は今までも、これからも、盗るつもりはない。素直に告白してみせたけど、雷蔵は未だ不服そうだ。
あるはずのない声は私を責め続けた。なら僕の顔は誰が盗ったというんだ、お前以外にいないだろ、そう。

だから私はほつほつ涙をこぼしながら、繰り返した。
盗ってない、ちがう、ちがう、私じゃない。私じゃないよ雷蔵、誤解なんだ。だって、君の顔を盗ったら私は、

「しんでしまうよ。そう言ったのは、君じゃないか」

するとささささささという軽い音と共に雨が降り始めた。
そらを仰ぎながら、あれ、私は今誰の顔をしていたっけと、ふと思案する。
雷蔵に訊ねようかと前を向くと、そこにはもう雷蔵はいなかった。
なら水たまりを覗き込めばいいと思って地面を見た。
するといやはやすっかり雨水は世界を覆い尽くしてしまったようで、気泡がぷかぷかと浮かぶばかりであった。
そこで、はたと気づく。


そうか私は君の顔を盗んでしまったのだ、だからすっかり、おぼれてしまったのだ。




雷鉢だいすき日和様へ!
鉢屋はぶくぶくしてそうですよね。
お、遅めの相互リンク記念・・・!



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