約束ひとつ
月はまるく、煌々と輝いていた。
素直に美しいと思えないこの道が憎らしい。ただ漠然とそう感じた。
しばし月を眺め、ふうと息を吐いてさて発とうと歩き出したとき、自分を呼び止める声。
「せんぱい」
「……伝七?」
月明かりが彼のほの暗い赤色の髪を照らす。そして、泣き出しそうな表情に気づいた。
手も足も震えている。握ろうかと差し出す掌を、彼は寂しげに拒む。
「やくそくを」
「約束?」
「おいしいおせんべいを買ったので、一緒に、あした、」
「うん。」
「みんなで、一緒に、食べましょう」
「……うん。」
彼の前にそっとしゃがみ込み目線を合わせ、すうと息を吸い込み、囁くように言う。
「伝七、いってきます」
「いっ、てらっしゃい、綾部先輩」
優しく撫ぜるとくすぐったそうにきゅうと目をつむった。
くすりと一度笑ってから、安心させるようにはっきりと言葉を放つ。
「約束、守るよ。」
この約束事を見守ってくれているのなら、月もたまには悪くない。
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うちの伝→綾こんなんばっかですね!
お題診断さまをお借りしました。
『満月の夜、すっと息を吸ってからひとつの約束事をする伝→綾を思い描いて下さい。』