鈍痛
「痛いんだよ」
呟くその人をぎゅうと抱きしめる。かすかに震えていることに気づき、ますます強く抱きしめた。
「でも僕より、きっと、僕が殺しちゃった人の方が痛いんだ」
でこぼこの地面を伝う鮮血は留まることを知らない。
何も言えなかった。言わない方が良いと思った。
傷だらけで血まみれのその人を、僕はまだ愛していたから。きっとこれからも愛し続けるから。
だから、何も言わないでいた。
「ちゃんと覚悟してたはずなのに」
何も言わなかった。
「こんなはずじゃなかったのにね」
頷くことさえしなかった。
「こんなはずじゃ、なかったのに」
ただただ深く抱きしめた。壊れそうなほど抱きしめた。
壊れてしまった方が、いっそこの人は幸せなんじゃないかと思った。
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お題診断さまをお借りしました。
『いすタカへのちょっと暗めなお題は『こんなはずじゃなかったのにね』です。』