第十九話「お願い」


「黒男さん…

トリトンくんを助けてあげないの?」

「さあ…どうするかな?」

ホテルで朝を迎えた未来とブラックジャックは

そんな会話をした。

ブラックジャックはベッドの敷布団の上に

気楽に仰向けに横になっていて

未来はそんなブラックジャックに

寄り添うようにベッドに座っている。

「お願い…トリトンくんを助けられるのは

黒男さんだけだわ」

昨日自分の腕をじっと見るトリトンが

未来は忘れられなかった。

「そいつはすごい信頼だな」

ブラックジャックは悪くないと言わんばかりに

笑ったが

結局未来にトリトンの手術をするとは

言わなかった。


このみ先生も夕暮れの中

湖のほとりで

ブラックジャックに同じ質問をした。

「私の外科医としての技術なら

どうすることもできません」

「黒男さん…」

「ちぇんちぇーお願い」

このみ先生、未来、ピノコも必死にお願いしたが

「お断りしますよ、私には関係ない」

ブラックジャックはそう言って

このみ先生のそばから去ろうとしていた。

「黒男さん…!」

「未来、静かに。

狙われている、振り向かずに歩くんだ」

未来にだけ聞こえる声でブラックジャックは

そう言った。

「っ!?」

ピノコを含めた三人に緊張が走る。

ブラックジャックは懐から出したメスを

夕日で光らせて

殺し屋が出来た一瞬の隙に

車をヒッチハイクして逃げた。

「ふう…」

「助かった…」

未来とピノコは車に乗れて

安堵のため息をついた。

「怖かったかい?」

しかし未来とピノコにそう声をかけた

ブラックジャックの声は優しかった。

「大丈夫…覚悟はしているから」

「そ、そうなのよさ」

二人の奥さんはブラックジャックにそう言ったが

手が震えていた。

「…」

未来のそんな右手をブラックジャックは

そっと握った。

(私のために…未来、ピノコ…ありがとう)

言葉に出さなかったがブラックジャックは

そう二人に感謝していた。

そして今自分がやるべきことを考えた。


to be continued