第五十話「影三とみお」


ブラックジャックはバート院長と共に

キャサリンの人工心臓を取り換える手術を行った。

先ほどの電話は人工心臓の手配だったのだ。

キャサリンが生きるために必要な手術だった。


手術が終わってブラックジャックは

再びバート院長と話し合いをしていて

ピノコと未来はキャサリンを見ていた。

「ん…」

「おばあさん!」

「気がつきましたか、キャサリンさん!」

キャサリンが目を覚まして

ピノコも未来も声をかけた。

もう大丈夫だろうと二人はほっとした。

「ピノコちゃん…未来さん…私は…」

横になったまま途切れ途切れにキャサリンが聞いた。

「ブラックジャックちぇんちぇーが

新しい人工心臓に変えてくれたんだよ」

「これでもう大丈夫だと思います」

「そう…よかった」

二人の説明にキャサリンは安心したように

目を細めた。

そこにブラックジャックとバート院長がやって来た。

「ブラックジャック先生、本当にありがとう」

「奥さん…

どうしてもお聞きしたいことがあります」

キャサリンにお礼を言われたブラックジャックは

真剣な表情で口を開いた。

ピノコも未来もバート院長も

そんなブラックジャックを見守っている。

「あなたの胸にあったあの人工心臓は

間影三という人から提供されたのですか?」

「懐かしい名前ね…。

影三とみおに、私は命を救われたの」

キャサリンは遠くを見るような目で

過去を思い出しているように見えた。

「それは…私の両親なんです」

うつむくように言ったブラックジャックに

キャサリンは驚いたような顔を一瞬見せてから

笑った。

「やっぱり!影三にそっくりだもの!」

キャサリンは少しずつ話を始めた。


もう40年近くの話になるが

今いるバート病院で

影三、みお、キャサリン

バート院長のお父さんであるベンが

働いていた。

キャサリンとみおは気の合うナース同士

影三とべンは医師同士で

とても仲が良かった。

ある日、影三はあるプロジェクトに参加するため

病院から去ろうとしていた。

キャサリンは止めようとしたが

影三は愛するみおを置いていなくなってしまった。

そして一年後

キャサリンはバート院長を妊娠中に

心臓発作を起こしてしまう。

しかしドナーが見つからなくて困っていると

影三が人工心臓を持って現れた。

無事に心臓移植は終わりキャサリンは助かった。

影三とみおは結婚して日本に帰ったらしい。

「恋人達の時計の前で

二人はとても幸せそうだったわ…」

キャサリンの話はそこで終わった。

「ブラックジャック先生

影三はみおを愛していたわ。

あなたが未来さんを愛しているようにね。

多分今も…」

「っ!…そんなはずはない!」

ブラックジャックは急にパイプ椅子から

立ち上がった。

「黒男さん?」

未来が不思議に思って声をかけた。

しかしブラックジャックは何も言わず

窓の外を見た。

絶対にそんなわけがないと

ブラックジャックの背中に書いてあるようだった。

「あの男にそんな心が残っているわけがない!」

キッパリとブラックジャックは言いきった。

「あいつは母と私を捨てて逃げた男なんだ。

今も母を愛しているはずがない」

「黒男さん…」

ブラックジャックの父への気持ちが

未来には辛かった。

でも自分にはどうしてやることもできず

未来は無念だった。


キャサリンは助かり

ブラックジャックはバート院長から

ドクタージョルジュの居場所を聞いた。

バート院長は母を助けたブラックジャックに

心から感謝していた。

三人はニューヨークを去ろうとしている。

「あの人工心臓、盗まれちゃったんだってね…」

ニューヨークの夜道を歩きながら

ピノコが口を開いた。

「ああ」

「誰が盗んだのかしら?」

「あ!」

未来が憶測しているとピノコが走り始めた。

「ピノコ ハート ブラックジャック!

なのよさ!」

「じゃあ私も!

未来 ハート 黒男!」

アイラブニューヨークの看板を見て

二人の奥さんははしゃいだ。

「お前さん達…恥ずかしいではないか」

ブラックジャックはそう言ったが笑顔だった。


to be continued