第四十五話「追憶」


その夜、三人は

バート病院の近くのホテルに泊まった。

「ふう…」

バート院長に会ってから口数が少なくなった

ブラックジャックは

首のタイを緩めて勢いよくベッドに

仰向けに横になった。

「黒男さん…」

ベッドに横になっているブラックジャックに

未来は遠慮がちに声をかけた。

ピノコは読書をしている。

「さっきの本間血腫って…」

「最近、お前さんには昔話をしてばかりだな。

また聞いてくれるかい?」

心配そうな顔の未来に

ブラックジャックは微笑んだ。

その顔を見て改めて

未来はこの人が好きだなと思った。

「もちろんだよ」

「ありがとう。

あれはまだ本間先生が現役だった頃だった…」

少しずつブラックジャックは話し始めた。

本間血腫は本間先生が見つけた病気で

本間先生はその疾患の患者に生体実験をしたと罵られ

一線を退いてしまった。

「あまり覚えていないが

私がお母さんと一緒に本間先生と出会ったのは

その直後だった。

それからはお前さんも知っているよな?」

「…うん」

その後ブラックジャックは爆発事故に遭い

本間先生は老衰で亡くなった。

それを知っている未来は

ただうなずくことしかできなかった。

「私はどうしたら黒男さんの気持ちに

寄り添えることができるかな?」

「もう未来は十分すぎるほど

私の気持ちに寄り添ってくれているよ」

そう言ってブラックジャックは

横になったまま未来の右手を握った。

「その後私は本間先生の遺書を見つけたんだ。

本間血腫には手を出すな、と書いてあったよ。

だが…私は先生の仇を討ちたい」

いつの間にか暗くなった外を

立ち上がって見ながらブラックジャックは言った。

本間先生の遺書に従うか

本間血腫と戦うか…

その背中からは迷いが感じられた。

「黒男さん…」

「どうしたの?ちぇんちぇー」

「なんでもないよ、ピノコ。

未来もそんなに暗い顔をしないでくれ」

しかし未来の方を振り返った

ブラックジャックの顔はいつも通りだった。


to be continued