第三十六話「私はもっと嬉しかった」


蟻谷の手術は八時間に及んだ。

未来やピノコは蟻谷が心配だったが

ブラックジャックを信じて、ただ待った。

そして手術室の扉が開いた。

「手術は成功だ」

「やったー!」

「黒男さん!」

手術室から出てきたブラックジャックに

二人の奥さんは抱きついた。

三人とも蟻谷との約束を果たせて嬉しかった。

「おい…ピノコ、未来まで…」

「ちぇんちぇー大好き!」

「さすが黒男さん!」

しばらく三人は抱きあっていて

それを呆然と見てから去っていったスーツの男には

あまり気にかけなかった。


意識を取り戻した蟻谷の話では

蟻谷は自分の会社の裏金を使ったと

濡れ衣を着せられ

列車が近づいている踏切に放り出されたらしい。

その事件に「ヒュドラ」「ノワールプロジェクト」

という単語を聞いたと蟻谷はベッドに横になりながら

ブラックジャックに話した。

蟻谷はまた命を狙われる可能性が高いため

ブラックジャックが整形をして

自由の身となった。

「これから新しい人生を生きていきます」

新しい顔の蟻谷は

教会でブラックジャックにすがすがしくそう言った。

蟻谷はただただブラックジャックに感謝をしていた。

「私とはもう関わらない方がいい」

「蟻谷さん、ありがとう」

「元気でね!」

そう言って三人は教会を出ようとした。

「先生!未来さん!ピノコちゃん!

どうして、どうしてここまで

私に尽くしてくださったのですか?」

蟻谷は歩く三人にそう聞いた。

「お互い様です。

あなたに助けてもらった時

私はもっと嬉しかった」

そう微笑みながら言い残してブラックジャックは

再び歩き出した。

「黒男さん、かっこよすぎ」

「金遣いが荒いの間違いではないか?」

褒めた未来にブラックジャックは

照れ隠しでそう言った。


to be continued