第三十話「優しい日本人」


イギリスに行くはずだったスカイホスピタルは

ハイジャックに遭い

未来達は歩いて中東の小さな町にやって来た。

スカイホスピタルが不時着したのが

その地域だったから仕方がない。

「ここも怪しい所なのさ…」

ひとまず食事をとることにしたのだが

ピノコは不安そうだった。

確かに日本にはない怪しい雰囲気がある。

「早く空港にたどり着きたいわね。

もう少しの辛抱…」

「からーい!」

未来がピノコを励まそうとしたら

ピノコがカレーを食べてから叫んだ。

相当辛いらしく

ピノコは椅子から転げ落ちた。

そんなピノコを周りの人も見ている。

「水!水!!」

「ぴ、ピノコ…

この辺では水も買わなきゃ出てこないんだぞ?」

ブラックジャックはそう教えたが

「はい、どうぞ」

優しくペットボトルに入った水をピノコに渡す男性がいた。

その人は水色のスーツを着た日本人のようだった。

「どうもすみません。

あの、水の代金を…」

ピノコが水を飲んだのを見てから

ブラックジャックはその男性に言った。

この辺では水も高いから

ブラックジャックは申し訳なさそうな顔になる。

「ああ、いいんですよ!

それよりあなたがた日本の方ですよね?

よければご一緒させてもらえませんか?」

優しい男性に三人は賛成した。

一時はどうなるかと未来も思ったが

彼のおかげで楽しい食事になった。

「ここには旅行に来たの?」

「残念ながら仕事だよ」

身長が足りないから樽を椅子替わりにしているピノコに

男性は笑った。

「僕は医療器具のメーカーに勤めているんだ」

「へえ!うちのちぇんちぇーと未来は

お医者さんだよ!」

「そうなのですか?」

男性は少し驚いたように

未来とブラックジャックを交互に見た。

「ええ、まあ…」

「一応そうです」

ブラックジャックは言葉を濁し

未来は対照的に微笑んだ。

ブラックジャックは身分を隠しているから

あいまいな答えしかできない。

「でもでも!

訳があってちぇんちぇーの名前は

秘密なの!

あ、未来の名前言っちゃった」

ピノコは自分で気が付いたようで

ハッと自分の口をおさえた。

「はは!

なら私も名乗るのはやめておくよ。

そちらの女性の名前も

忘れてしまおう」

男性はそう言って微笑んでから

腕時計を見て立ち上がった。

「いけない。

そろそろ行かなくては。

最終の飛行機で帰らないとね」

「じゃあ私達も出ましょうか?」

「そうだな」

食事は終わっていたから

未来にうなずいてから

ブラックジャックも立ち上がった。


男性がお店のドアを開けると

パトカーがサイレンを鳴らしながら通り過ぎて行った。

「この辺は物騒だから気を付けてください。

それじゃあ」

男性はそう言って立ち去った。

しかしこの後

未来達は大変な目に遭うとは

思っていなかった。


to be continued