第五十二話「決戦前夜」


ケテルブルクに到着し

すぐにアブソーブゲートへ向かいたかったが

浮遊機関が寒さで凍ってしまったとノエルは言う。

仕方がなく今夜はケテルブルクで休むことになった。


今夜は一人一部屋で泊まることができ

未来は二階にある客室の窓を開けて

雪を眺めていた。

「綺麗…」

未来は自分の手袋を外し、直接雪に触れた。

掌で溶ける雪をじっと眺める。

「未来、風邪をひきますよ?」

声のした方を未来が見ると

ジェイドがホテルの外に立っていた。

吐く息が白い。

「ちょっとだけだから」

「そう言って随分時間がたっていますよ?」

ジェイドは注意するように言って

メガネをかけなおした。

「見ていたのね」

くすりと未来は笑ったが

ジェイドはもうそこにいなかった。

そう未来が気づくと、部屋のドアが開いた。

誰が来たのか

未来は振り返らなくてもわかっていた。

「…ジェイド」

「ほら、もうこんなに冷えていますよ?」

未来の華奢な背中をジェイドは抱きしめ

雪で冷やされた未来の指に

自分の指をからませた。

「もうやめるわ。いよいよ明日だからね」

「そうしなさい」

未来は窓を閉めて、ジェイドの方を振り向くと

もう一度、抱きしめられた。

「明日、決着がつけば

ようやくグランコクマにゆっくり帰れるわね」

「ええ、長い旅でした」

「でも楽しかった」

未来がそこまで言うと、ジェイドは腕を解き

いつかのように未来の頬に優しく触れた。

そしてそのまま…

(ジェイド…)

未来は慌てて目を閉じた。

唇にジェイドのぬくもりを感じたから。

最初は少し触れ合うだけだったが

ジェイドは強く密着させ

角度を変えて未来を確かめた。

未来はジェイドの軍服にしがみついた。

甘い口づけにとけてしまいそうだった。

「グランコクマに着いたら

もっと恋人らしいところへ行きましょう」

「そう、ね」

耳元でささやかれ、未来はうなずいた。

「私の行きつけのカフェがおすすめです。

シフォンケーキが有名なのですよ」

「楽しみだわ」

見つめあいそう話した二人は

明日は死なない、生きて帰ると信じていた。


to be continued

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