第五十一話「雪山の頂上で」


ロニール雪山は極寒だった。

あらかじめコートを新調したが

それでも寒さはしのげない。

それでも耐えるしかなく

ジェイドの注意で雪崩を警戒し

物音を立てないように進むことにした。

しかし

「きゃあ!」

「転んでしまいましたわ」

「二人とも、ちゃんと私のように歩けば…

きゃあ!信じられない!」

女性三人が転倒した。

そして未来も

「みんな気を付けてね!

…あっ!」

注意しかけたとき、転びそうになった。

「おわ!」

しかし未来は反射的に

近くにいたルークの腕につかまってしまった。

「び、びっくりしたー」

「ごめんなさい、ルーク」

「いや。未来が転ばなくて、よかったよ」

二人は笑いあった。

「それよりルーク〜大佐が睨んでいるよ」

「おや?私はいつも通りですよ?」

アニスの注意に未来とルークは慌てて離れた。

「まったく、これからは私の近くを歩きなさい」

そう言い、ジェイドは

すかさず未来の隣を奪う。

「やっぱり根に持ってるんだな」

「そうみたいですね」

ガイとイオン様が

ジェイドに聞こえないようにつぶやいた。


奥に進むと、風が大きくうなった。

女性の亡霊の話をジェイドが思い出し

そんな話が好きなナタリアは喜んだ。

「ば、馬鹿馬鹿しい!行きましょう」

「そ、そうよね!」

しかしティアと未来は先を急ぐふりをした。

「遠慮しなくていいですよ?

実はこのあたりで…」

「きゃー!それ以上言わないで!」

未来は思わずジェイドの口を手で押さえたが

ジェイドの柔らかい唇の感触に

慌てて手を放した。

「未来、雪崩には気をつけましょうね」

ジェイドはご満悦だった。


雪山の頂上に着くと

六神将のラルゴ・リグレット・アリエッタが

やはり待っていた。

アニスとイオン様はアリエッタと

ティアはリグレットと

ナタリアはラルゴと

言葉を交えたが、やはり戦闘になってしまった。

未来は一瞬誰を攻撃すべきか考えたが

すぐ目に留まったのはティアだった。

リグレットに攻撃はしているが

迷いがにじんでいる。

「光の鉄槌を!リミテッド!」

未来はすかさずリグレットに下級譜術を向けた。

「ちっ!」

「未来?!」

リグレットとティアは未来に驚いたが

すぐにリグレットは砲弾した。

しかし

「それであてたつもり?」

未来が出現させた譜術障壁に弾ははじかれた。

「未来…」

「ごめんなさい、ティア。

でも今のあなたが

リグレットを倒すのは無理よ」

未来はティアとリグレットの間に立ち

「未来の意見に賛成ですね」

ジェイドもその右で構えた。

「未来、大佐…ありがとう。でも…!」

「いいのよ」

未来はつぶやくと譜陣を出す。

すると周りの冷気や吹雪が

未来の短剣に収縮された。

「瞬迅槍」

「ノクターナルライト」

ジェイドとティアは

未来が詠唱に入ったのを背中で感じ

その時間を稼いだ。

「無慈悲なる白銀の抱擁を受けなさい」

ギリギリまで未来は冷気を集め

それを一点…リグレットに放つ。

「アブソリュート!!」

「なにっ!」

大規模な譜術に

リグレットは倒れるしかなかった。

ラルゴもアリエッタも戦闘不能の状態で

悔しそうにうめき声をもらしている。

しかし次の瞬間、轟音が起きた。

「今の戦いで雪崩が…」

「そんな!調節したのに」

未来は雪崩を配慮し

秘奥義は使わなかったのだ。

「みんな!集まって!!」

ティアがアクゼリュスの時のように譜歌を歌い

倒れた六神将以外の全員がフィールドに入ると

雪崩があたりを覆いつくした。

そしてフィールドは雪を溶かして消えた。

「よかった、みんな無事ね」

「私達はいいけれど…」

「アリエッタ達は…」

未来とアニスは雪の塊を見つめた。

その中にはリグレット達が埋まっているだろう。

「物思いにひたっている暇はありませんよ」

「ちょうどここが

セフィロトの入り口のようです」

イオン様はすぐに解呪を行い

雪の上にしゃがみこんでしまった。


ふらふらのイオン様をアニスが支え

パッセージリングへ向かう。

そしてルークが

すべてのセフィロトを

アブソーブゲートとラジエイトゲートへ

連結させると、地震が起きた。

「やられた。

ヴァンの仕業だ」

パッセージリングを見上げたジェイドの声が

ゆがむ。

アブソーブゲートから記憶粒子が逆流していて

各地のセフィロトの力が

アブソーブゲートに流入されていた。

「崩落するならアブソーブゲート以外の大陸だ」

「じゃあ、タルタロスは壊れ

地核の振動を止めることはできなくなるのね」 

「でもイオン様は休まないと…」

みんなは急いでロニール雪山を後にし

近くにあるケテルブルクに向かった。
                 

to be continued

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