第四十九話「説得」


ベルケンドで一夜を過ごすことになり

夜もふけたとき

未来の部屋にノックする音が響いた。

驚いた未来が扉を開けると、ティアがいた。

「ティア…どうしたの?」

「ごめんなさい、こんな時間に…

未来…

私と一緒にワイヨン鏡窟へ行ってほしいの」

ティアは張り詰めた顔をしていた。

「いいけれど、どうして鏡窟に?」

「そこに、リグレット教官と…兄さんがいるわ。

もう一度、兄さんに

こんな馬鹿げたことをやめるように

頼んでみたいの。そこで…」

ティアは未来を見つめた。

「未来と一緒に行きたいの。

こんなお願い、失礼だと思うけれど

あなたと一緒なら、安心できるの。

もちろん、精神的に…」

「そう…わかったわ。

支度をするから、少し待っていて」

未来はティアを安心させるよう

できるだけ優しく言った。


「お待たせ、行きましょう!」

宿の外で未来はティアと合流した。

「大佐には言ってきたの?」

「ううん」

未来は首を横に振った。

「きっと言ったら止められるから」

「ならやっぱり、未来はここに…」

「いいえ」

もう一度未来は首を振った。

「私に頼ってくれて、嬉しかったわ。

それにあんな鏡窟に

あなた一人に行かせるわけにはいかないわ」

「ごめんなさい…そしてお願いね」

「ええ!」

二人はベルケンドを出ようとしたが

「こんな時間に女二人で、なにをしている?」

背後から声が聞こえ

振り向くとアッシュがいた。

「アッシュ?どうしてここに?」

「こちらが聞いている」

いつものことだが

アッシュは機嫌が悪そうな顔をした。

仕方がなくティアが

ワイヨン鏡窟に行くことを教えると

アッシュも行くという。

「あら、私達を守ってくれるの?」

「なっ!そんなわけあるか!」

未来がからかうと、アッシュは歩き始めた。

「俺もヴァンに用事があるだけだ。

さっさと行くぞ!」

「相変わらずなのね」

「未来、アッシュに聞こえちゃうわ」

二人も慌ててアッシュについていった。


「リグレット教官!」

ワイヨン鏡窟に到着すると

リグレットが鏡窟の入り口で待っていた。

「やはり来たな、ティア…

アッシュと未来も一緒、か」

「こいつに落としたここの鉱石は

果たし状だったってことか?」

アッシュは剣を構えたが

リグレットには攻撃の意思がない。

「総長閣下は中でお待ちだ、進むがいい」

そう言うとリグレットは道を開けた。


「兄さん!」

「待っていたぞ、ティア」

リグレットの言っていた通り

ヴァンは鏡窟で最深のレプリカ施設にいた。

「兄さん!

私と同じように

パッセージリングを操作していたら

障気で体がボロボロになるわ!」

ティアの悲痛な叫びが響いた。

「それは些細なことだ。

私が倒れても、同志はたくさんいるからな」

しかしヴァンの顔色は変わらない。

そしてレプリカで世界を作るために

ローレライの力を使いきり

ローレライを消滅させると言う。

「あなたはそこまで預言を憎んでいるの?」

「そうだ、堕天使殿」

初めてヴァンは未来を見た。

「お前がシェリダン中の民を救ったことは

聞いている。

見事だ。

その力、私と一緒に使わぬか?

フォミクリーはお前が愛する者が

作り出したのだぞ?」

「お断りよ」

未来の両手は握りしめられた。

「ジェイドはフォミクリーを禁忌としたわ。

私はジェイドと同じように生きる」

きっぱりと未来は言い

「よく言った」

うなずいたのはアッシュだった。

「止めても無駄なら、倒すまでだ!」

アッシュは叫び、ヴァンに斬りかかった。

「甘いな、お前の剣の師匠は私だ」

ヴァンは余裕のある顔でアッシュを突き放した。

それが二度、三度と続く。

「やめて!兄さん!」

「ティア!」

二人を止めようとしたティアの名前を呼んだのは

ルークだった。

ジェイド達も後ろに続いた。

「迎えが来たようだな、行くがいい」

ヴァンの剣で傷つけられたアッシュは

うずくまり、ナタリアが治癒を始めた。

ヴァンは施設を出ようとしたが

「もう一度考えてくれ、未来」

未来の横を通り過ぎたとき

未来の肩に手を乗せた。

「汚い手で

私の未来にふれないでほしいですね」

ジェイドが機嫌の悪い声で制すと

「これは失礼した」

ヴァンは笑みすら浮かべ、去って行った。

「ジェイド…あの…」

「心配しました」

勝手な真似をしたことを謝ろうと

未来が口を開くと

それを止めるように

ジェイドは未来を抱きしめた。

周りからアニス達のからかいの声と

アッシュの舌打ちが聞こえる。

「ジェイド!こんなところで!

みんな見ているわ」

「ダメです、不安にさせた罰です」

未来はジェイドの腕の中でジタバタをしたが

さらに強く抱きしめられるだけだった。

「ごめんなさい、大佐。

未来をまきこんだのは、私です」

ティアは謝り、ルーク達にも

ヴァンに説得したかったことを説明した。

「いつも思っていたわ

兄さんがこんな馬鹿げたことをやめてくれないか

って」

泣きそうな声のティアに

誰も声をかけられなくなる。

「でも…私と兄さんは

進むべき道を違えてしまったのよ。

もう迷わないわ」

全員の瞳を見て、ティアは決意した。

「行きましょう、次のセフィロトがある

ロニール雪山へ!」

次のティアの声には、もう迷いはなかった。


to be continued

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