番外編「怖い」(ジェイド視線)


地核停止作戦が成功し

ティアの検査を頼むためにベルケンドに行くと

アルビオール一号機が

街の近くに着陸していた。

「お兄さん?!」

妹のノエルが二号機から飛び出すと

ギンジはアルビオールの点検を行っていた。

「ノエル!無事だったんだな」

ノエルの笑顔にギンジも笑った。

「なぜ、あなたがここに?」

私が声をかけると、彼はハッと私を見た。

「ジェイドさん!

未来さんが倒れて

ベルケンドの病院にいるんです!

オイラは未来さんを運んで…」

「未来が?!」

私は自分の顔が強張るのを感じた。

未来がアストン達を助けに行ったのは見ていた。

ならば…。

「未来はシェリダンで…」

「街の人、全員を助けました。

本当に天使…いや、女神ですね。

けど、そのせいで気を失って…」

ティアとギンジの会話が遠くに感じた。

「大佐…?」

アニスの声を聞き、我に返った。

私はアルビオールを降り

未来がいるだろう医務室へ急いだ。


「未来!」

「しずかに。未来さんは意識不明です」

厳しい声で言ったシュウの隣にあったベッドに

未来は寝かされていた。

いつも以上に白い彼女の顔を見て

その場に立つことしかできなくなる。

「大佐?」

「すみません」

落ち着こうとメガネをかけなおす。

「しばらく未来と

二人にしていただけますか?」

そうつぶやくと、全員が無言で外してくれ

私はベッドの隣にあった椅子に座った。

「未来…」

手袋を外して、未来の頬に触れると

とても冷たかった。

まるで死人のように。


『フォミクリーだ。

先生のレプリカを作成する』

『私は生き物の死というのが

理解できない』


今まで自分が言ってきた言葉が

心に浮かんだ。

そう、私は人が死ぬことに対し

『悲しい』

と思うことができない。

しかし…

「貴女には死んでほしくない」

触れていた頬から手を離し

改めて未来を見た。


『失礼いたします、陛下』


今度は未来を初めて間近で見た

旅の始まりの時を思い出した。

未来の噂は聞いていたし

ちらりと姿を見たことはあった。

しかし改めて彼女を見ると

その美しさに目を奪われた。

思えば、あの瞬間から

私は未来に惹かれていたのだろう。


「未来…愛しています。

目を開けてください」

泣きそうな自分の声を

私は初めて聞いた。

一人の命が消えるかもしれないのを

生まれて初めて

『怖い』

と思った。

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