第四十五話「堕天使の奇跡」


「しっかりしてください!」

タルタロスが出港したシェリダン港に

未来の凛とした声が響いた。

「お嬢、ちゃん…」

「なぜ…」

驚くヘンケン、キャシー、アストンに笑い

未来は目を閉じた。

攻撃とは違う譜陣を展開し

心を込めて未来は詠唱を始める。

「大気に舞いし精霊達よ!

清浄なる調を奏でよ!」

詠唱通りに、まるで精霊がやって来たような

優しい風が傷ついた三人を包み込んだ。

「フェアリーサークル!」

治癒術が完成するとヴァンによる傷は

ヘンケン達から完全に消えた。

「傷が…」

「ふさがってるわ!」

「動ける」

信じられないという顔で立ち上がった三人を見て

未来は安心した。

「よかった…

ですが念のため宿で休んでください」

「お前さんはどうするんじゃ?」

歩き始めた未来にアストンが聞いた。

「私は、イエモンさん達を助けに行きます!」

「そんな…!」

「一人じゃ無理じゃ!

今ので多くの音素を使っただろう?!」

彼女の無謀な行動を

キャシーとヘンケンが止めようとした。

「大丈夫。私を信じてください」

しかし安心させるように

もう一度未来は笑い、港を出た。


ふらつくなかシェリダンへ未来は急いだ。

瀕死の状態の人を一度に三人回復させたのだ。

平気でないわけがない。

(ダメよ…まだ…)

うまく動かない足に苛立ちながら

未来は進んだ。

『なんて強力な治癒術だ』

『こんな力…神より強いのではないのか?』

『神に逆らうものだ、堕天使だ』

戦場で多くの兵士を癒した未来は

その強い力から

自分が恐れられているのを知っていた。

(本当に、そんな力が私にあるのならば…!)

そう思い、未来はシェリダンにたどり着いた。


「イエモンさん!タマラさん!」

集会場の前まで来ると

たまらず未来は名を呼んだ。

しかし二人は無言のままだった。

「いいえ!まだよ!」

動かなくなった人々を見て

未来が叫んだ。

カラン

未来は自分の化身であると愛していた短剣を

地に捨てた。

「神よ…わが堕天使の願いにこたえよ」

両手を広げ未来は目を閉じる。

「残虐された民達の魂を呼び戻す

道しるべとなれ」

未来の体が金色に包まれ

その光は街中に広がっていく。

それに従い自分の体や命が削り取られていくのを

未来は感じた。

(この人達を救えるなら、本望だわ)

そう想い未来は瞳を開く。

「神々の祝福をここに!!」

そう叫んだ瞬間、眩い光が

シェリダンの街を照らす。

その光は動かなくなった犠牲者

一人一人を包んでいった。

「これは…!」

「未来ちゃん?!」

光が収まった時

イエモンが立ち上がり

タマラが未来に心配そうな顔を向けた。

「イエモンさん、タマラさん…

みんな、よかった…」

成功を実感し未来は涙を流し

そこで意識を失った。


「ジェイド…」

アクゼリュス崩落跡へ向かうタルタロスの艦橋で

一人で作業を行っていたジェイドに

ガイが声をかけに来た。

「心配、だよな?彼女のこと…」

「今は作戦の実行中です」

ガイの方を見ようとせずにジェイドは言った。

「それにあなたも

落ち着かないのではないですか?ガイ」

「ああ…やっぱり気が付いていたのか」

苦笑いをしたガイは窓から

未来がいるだろうシェリダンの方向を見た。



to be continued


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