第四十四話「シェリダンの犠牲」


シェリダンへ戻ってくると

タルタロスの改造は終わっていた。

アクゼリュス崩落跡から

タルタロスで地核へ行き振動を止める

脱出は譜陣にのったアルビオールで行う

しかしかなり時間は限られているという。

タルタロスがある港から

のろしが上がったという報告を聞き

急いで集会所を出ることになった。


「リグレット教官!?」

しかし集会所の前に立ちはだかったのは

魔弾のリグレットと多数の神託の盾兵だった。

「時間がないの!

そこをどきなさい!!」

「おまえたちを行かせる訳にはいかない。

無駄な抵抗はやめて、武器を捨てろ」

短剣を抜いた未来に

リグレットは降伏を要求する。

「タマラ、やれい!」

「あいよ!」

ひるまないイエモンの掛け声で

タマラは音機関を使い

高熱の炎を兵士に向けた。

「今です!」

その隙にジェイドを先頭に

全員が街の外へと急いだが

街の出口も神託の盾兵で封鎖されてしまっていた。

「ひるむな!

狭い街中では死霊使いと堕天使といえども

譜術を使えない!」

リグレットの声に神託の盾兵が攻撃をさらに加える。

「ジェイド!」

「未来!お願い!」

ルークとアニスはそんな兵士の剣を受けながら

二人に譜術を頼んだ。

「無理です!

味方認別のない一般人が多すぎる」

「かと言って、この数では…」

槍や短剣で攻撃を防ぎながら

未来達は焦り始めた。

どんどん時間が無くなっていく。

「タルタロスは俺の手もかかってるんだ!」

そんな時、助けてくれたのは

イエモン達シェリダンの民だった。

「邪魔だっ!」

「ぐおっ!?」

しかしイエモンはリグレットに突き飛ばされ

壁に強打してしまう。

「イエモンさん!」

「あたしら年寄より

やるべきことがあるでしょう!」

ルークはイエモンへ駆け寄ろうとしたが

炎を出し続けるタマラが止めた。

「さっさと…いかんかぁ!!」

イエモンは痛みをこらえて叫ぶ。

「…行きましょう。早く!」

再びジェイドを先頭に走り出した。

その後も神託の盾兵が何度も襲ってきたが

一人、また一人と

シェリダンの民が犠牲になり

道を開いてくれた。

(ごめんなさい!ごめんなさい!)

未来は心の中で泣いた。

駆け付けたキムラスカ兵に

ナタリアが命じ

被害は最小限に食い止められたかもしれないが

シェリダンの街は血まみれになってしまった。


「民間人がしゃしゃり出てくるからだ」

動かなくなったイエモン達を見て

リグレットはぽつりとつぶやいた。


シェリダン港に到着すると

譜業の催眠煙幕が充満していた。

しかしジェイドが譜術で吹き飛ばすと

ヘンケン達の仕業だったとわかった。

「神託の盾の連中がタルタロスを

盗もうとしやがったんでな」

「奴ら、街にも行ったみたいだけど

タマラ達は…」

アストンは誇り気に

キャシーは心配そうに言った。

キャシーの言葉に

未来達は黙ることしかできなくなる。

「まさか?!」

ヘンケンが嫌な予感を感じた時

「呑気に立ち話をしていていいのか?」

ヴァンがスピノザを従えて来た。

まずアストンが跳ね飛ばされた。

しかし未来達を守るように

ヴァンの前に立ったのは

キャシーとヘンケンだった。

「危ないわ!逃げて!」

「そうはいかん。

こうなったのはスピノザが裏切ったからだ」

「こんな年寄りでも障害物にはなるわ」

震える足と声で二人はヴァンに対峙する。

しかし助けようにも時間がなかった。

「ルーク!時間がありません!」

「わかってる!ごめん!」

ルークはそう叫んでタルタロスへ乗ろうとしたが

「未来?!」

一人だけ立ち止まったのは未来だった。

「ジェイド!私、行かないわ!」

「なんだって?!」

「来るんだ、未来!」

驚いて止めようとするルークとガイに背を向けて

未来は走り出した。

後は追われない。

ジェイドがルーク達を止めたのだろうと

未来にはわかった。

「ありがとう、ジェイド」

走りながら未来はつぶやいた。

「…ごめんじゃない。

ありがとうだろ…が…」

「…そうねぇ…

あの子達が帰ってきたら…

言葉の選び方を

教えてあげましょう…ね…」

ヴァンが去って行った港で

血を流しているヘンケン達に

未来は駆け寄った。

未来の水色の軍服に

血が染まっていった。



to be continued

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