第四十三話「親子の絆」


バチカルの城の前でイオン様が名乗り

インゴベルト陛下の私室に入ることができた。

「お父様…いえ、陛下。

どうかこれ以上

マルクトと争うのはおやめください」

ナタリアだけではなくルークやイオン様も

説得を試みる。

「恐れながら陛下。

年若い者にたたみかけられては

ご自身の矜特が許されないでしょう」

それまで黙っていたジェイドが口を開いた。

「後日改めて、陛下の意思を伺いたく思います」

「ジェイド!」

「兵を伏せられたらどうするんだ!」

突然のジェイドの提案にルーク達は焦る。

「そのときは

この街の市民が陛下の敵になるだけですよ。

先だっての処刑騒ぎのようにね。

しかもここには導師イオンがいる」

「私を脅すか死霊使いジェイド」

「この死霊使い…そして堕天使が

周囲一切の工作なくこのような場所へ

飛び込んでくるとお思いですか?

そうでしょう?未来」

インゴベルト陛下から未来へ視線を移して

ジェイドは言った。

「ええ…。

その工作が無駄に終わることを願います」

未来も毅然とうなずいた。

そして今の状況を書いた書状をジェイドが渡し

明日謁見の間で話をすることになった。


「ジェイドと未来。

叔父上を脅したけど

こんな短い時間にどんな手を回したんだ?」

城を出て宿に向かう途中にルークが聞いた。

「ああ。はったりに決まってるじゃないですか」

「やっぱりね。そうだと思ったわ」

にやりと笑う二人にルーク達は苦笑した。


翌朝。

「私はこの国とお父様を愛するが故に

マルクトとの平和と

大地の降下を望んでいるのです」

ナタリアの凛とした声が謁見の間に響いた。

「よかろう」

そして遂に

インゴベルト陛下はうなずいてくれた。

それを聞いたモース達が騒ぎ出したが

「黙れ!

我が娘の言葉を戯言などと愚弄するな!」

インゴベルト陛下は一蹴した。

その言葉にナタリアは涙を流す。

「お父様、私は…王女でなかったことより

お父様の娘でないことの方が…辛かった」

ナタリアがインゴベルト陛下に駆け寄り

ルーク達も喜びの声をあげた。

「未来、目が潤んでますよ」

隣にいた未来を見て

ジェイドは優しく言った。

「え?そんなことないわよ。

でも、感動したわ」

未来が見つめる先には

まだ抱き合う二人がいて

その姿は確かに『親子』であった。


ピオニー陛下へ報告するためにグランコクマへ

飛行譜石を取り戻すためにダアトへ

そして会合のためにユリアシティへ

世界を回って、ようやく平和条約が締結された。


「ガイの行動は驚いたけれど

これで戦争は起きないわよね。

私達の仕事は減るでしょうけれど」

「それがいいのですよ」

会議室を出てそんな話を

未来とジェイドはしたが

「おい、アニス…あいつら『まだ』なのか?」

「はい、『まだ』です」

「さっさとくっつけば良いのにな」

ピオニー陛下とアニスが

二人に聞こえないように話をしていた。


to be continued


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