第四十二話「ナタリアの覚悟」


シェリダンに到着すると

イエモン達はタルタロスを改造していた。

丈夫なタルタロスを地核に沈めるらしい。

準備まで時間がかかるので

外で待つことになった。

「タルタロスは最後の仕事になるわね」

未来はそっとため息をついた。

「寂しいですか?」

「ええ。私達の旅の始まりですものね」

そう言いながらジェイドと未来は笑いあった。

自分達が相思相愛なのは

二人は気がついていなかった。


「なあ、ちょっといいか?」

集会所を出るとルークは真剣な表情でみんなに声をかけた。

やっぱり叔父上やピオニー皇帝にちゃんと事情を説明し

ちゃんと説得して平和条約を結ぼう。

キムラスカ、マルクト、ダアトも協力しあって

外殻を降下させるべきだ、と彼は言う。

それを聞いた全員がルークの成長に驚いた。

しかしナタリアはすぐに顔を曇らせた。

「少しだけ考えさせてください。

バチカルへ行くのが一番なのはわかっています。

でもまだ怖い。

お父様が私を拒絶なさったこと…ごめんなさい」

そう言ったナタリアは立ち去ってしまった。

「ナタリア…」

「彼女が決心してくれるまで、待つしかないな」

ルークとガイは困ってナタリアが去った方角を見たが

未来はなにか考え込んでいた。

「どうしたの、未来?」

不思議そうにティアが未来の顔をのぞきこんだ。

「ちょっとね…もしも彼女が怖いなら

私達だけで行くべきなのかもしれないわ、と思って…」

「けど、それじゃ親子の絆が…」

「いえ、彼女の言う通りです。

危険を冒してまでナタリアが行く必要はありませんよ」

アニス達が反対しようとしたが

ジェイドはうなずいた。

「ん?」

その時、未来の目に赤い髪がかすかに映った。

「未来、今度はどうしたんだ?」

「ごめんなさい。ちょっと外すわ」

ガイにそう言って未来は走り出した。


「アッシュ!」

「ん?未来か…」

走った先にはやはりアッシュがいた。

「こんなところで何を…」

「お前には関係ない。それより俺に何か用か?」

「それが…」

未来はナタリアの現状を話し始めた。


「そうか…バチカルに行くのか…」

話を聞いたアッシュがため息をつきながら言った。

「ナタリア、怖いでしょうね。

私は行かなくてもいいとは思うけど…」

「いや、あいつは行くべきだ」

断言したアッシュは歩き始め

一度、未来を振り返った。

「大丈夫だとは思うが、俺もあいつと話してみる」

「そう言ってくれると思ったわ」

してやったりと未来は笑い

アッシュは鼻で笑って去っていった。


結局、その日はシェリダンの宿で休むことになり

未来は早朝に目が覚めて、本を読むことにした。

「未来…少しよろしいかしら?」

するとノックの音とナタリアの声が聞こえた。

「どうしたの、ナタリア?」

不思議そうに未来が扉を開くと

いつもの服装のナタリアがいた。

「こんな時間にすみません。

灯りがついていたので…」

「いいのよ」

未来は部屋に通し、彼女のために紅茶をいれた。

「ありがとう」

紅茶がはいったカップを受け取ったナタリアは

疲れているように見えた。

「もしかして眠れなかったの?」

「ええ…でも、そのおかげでアッシュに会えましたわ」

「そう」

アッシュの名を聞き、未来は安心した。

彼がナタリアを励ましたのだろうと、すぐに分かった。

「あなたの言う通りでしたわ。アッシュは私の支えです」

嬉しそうにナタリアは言った。

「よかったわね、ナタリア」

「ええ」

ニコリと二人は笑いあった。

「私はもう大丈夫ですわ」

「じゃあ、バチカルへは…」

「行きます。アッシュのためにも」

ナタリアはきっぱりと言う。

「そう、決意したのね」

紅茶を飲みながらできるだけ優しく未来はつぶやいた。

「本当にアッシュが好きなのね」

「そう言われると、恥ずかしいですわ。

それより…」

ナタリアはカップを置き

今度は興味深そうに未来を見た。

「未来は大佐とはいかがですの?」

「え?私とジェイド?!」

突然自分のことを聞かれ、未来は戸惑った。

「べ、別に私達は…」

「あら、隠したってダメですわ。

大佐のこと、好きなのでしょう?」

「う…うん」

正直に未来はうなずいた。

「想いは告げないのですか?」

「だって勇気が出ないわ」

未来は今のジェイドとの関係が崩れるのを恐れた。

「そうですの?

大佐はあなたのこと、とても大切に思っていますわ」

「そ、そんなこと…」

「いいえ」

もう一度紅茶を飲み、自信を持ってナタリアは否定した。

「思い当たるふしがあるのではないですか?」

「それは…」

未来が思い出したのはアクゼリュスが崩落する時だった。

あの時、ジェイドは未来を抱きしめて守ってくれた。

それに魔界に落ちたタルタロスの中で

なにかを言いかけていたのだ。

「まあ!それは告白したかったに違いありませんわ!」

未来の話を聞き、ナタリアは喜んだ。

「それは…どうかしら」

未来は恥ずかしくてたまらなくなる。

「ふふ。からかうのは、これくらいにしておきますわ」

そう言うとナタリアは立ち上がった。

「ありがとう、話せてよかった。

少し休むことにします」

「そうね、そうしたほうがいいわ」

未来はナタリアを見送り、部屋の扉を閉めたが

思い浮かべるのはジェイドのことばかりだった。

(私とジェイドが両想い?…まさかね)

淡い期待を未来は捨てようとした。

傷つくのが怖かったのだ。


「お父様を説得して見せますわ」

朝日が照らす中、ナタリアは高らかに言った。



to be continued

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