第四十話「ガイの過去」


「未来、一緒に言おう!」

ダアトに到着し

イオン様がいるだろう私室へ向かうことになった。

アニスは部屋まで続く譜陣に元気よく立ち

未来に笑った。

「もちろんよ」

「「ユリアの御霊は導師とともに」」

二人の声が重なるとワープが始まった。


「皆さん!ご無事でしたか!」

私室でイオン様は喜びながら席を立った。

ナタリア達が助かったのは

アッシュが迅速に動いてくれただろう、と

謙遜する。

そして

「さっきも説明しただろう…」

再びガイがこれまでの経緯をイオン様に説明した。

イオン様は確信ではないが

セフィロトがタタル渓谷にあるのではないか

と言い

渓谷へ向かうことになった。


「いってえ!」

教会を出ようとした時

ルークが頭痛でしゃがみこんだ。

アッシュの声が聞こえたらしい。

スピノザが計画を手紙でヴァンへ知らせた

ヘンケン達はシェリダンへ逃げた

という報告だったようだ。

「しくじりました。私の責任だ」

悪い報告にジェイドは眉をひそめた。

「立ち聞きに気づかなかったのは

気を抜いていたからです。

未来は気がついたのに…」

「いいえ、私も気づくのが遅かったわ。

ごめんなさい、みんな」

未来は申し訳なさそうにうつむいた。

「君達のせいじゃないだろ?

それよりシェリダンへ急ごう」

ガイはそう言い歩き始め、全員が教会を出た。


「あらあら、アニスちゃん」

ダアトの街の出口にアニスの母・パメラがいた。

「アリエッタ様、アニス達が来ていますよ」

「ぎゃー!ママ!なんてこと言うのっ!」

悪気がないパメラの笑顔に

アニスはジタバタして焦った。

「ママの仇!」

そう叫び、アリエッタはライガと共に走ってきた。

「いけぇ!」

アリエッタが叫ぶと

ライガが走り出し雷を吐き出した。

そしてライガの雷がガイから外れ

イオン様にあたろうとした。

しかし

「イオン様!危ない!…きゃあ!」

「パメラ!」

「ママ!」

パメラがイオン様を守り

代わりに雷を受けてしまった。

ジェイドはアリエッタを拘束し

ナタリアはパメラに治癒術をかける。

「イオン様を護れたなら本望です」

苦し気にパメラは言った。

それを見ていたガイは

頭をおさえてしゃがみこんだ。

「ガイ?!どうしたの?

ケガをしたの?」

「いや、違う!…思い…出したっ!」

心配そうに顔をのぞきこんだ未来を見ず

ガイは目を見開いた。


ナタリアの治癒術で傷が完治したパメラだったが

念のため、部屋で休むことにした。

アニス達が心配そうにパメラについていく。

しかし未来は

ふらふらと礼拝堂へ向かうガイの方が気になった。

「私はガイについて行くわ。心配だもの…」

未来はガイの背に手を添えようとしたが

彼が女性恐怖症なのを思い出してやめた。

「未来…

心配いらないが、ありがとう。

嬉しいよ」

ガイと未来は

一定の距離をたもちながら礼拝堂の扉を開き

そんな二人を

アリエッタを連行するジェイドが見ていた。


「きれいだな」

礼拝堂に入るとガイがつぶやいた。

「そうね。ステンドグラス、私も好きだわ」

「そうじゃない。君のことだよ」

「え?!」

予想外の言葉に未来は驚いた。

「ジェイドの旦那がうらやましいよ」

微笑みながらガイは未来を見つめた。

「それって、どういう…」

「口説くなら

時と場合をわきまえてほしいですね」

そこにジェイドが割り込んできた。

「ははは。別に口説いちゃいないさ」

「そ、そうよ…ね。

そう言えばジェイド、アリエッタは?」

未来は焦りながら話題を変えようとした。

「イオン様が言った通り

詠師トリトハイムに引き渡しました」

ジェイドは離れていたガイと未来の間に立った。

「そう、お疲れ様」

「いえ。

六神将の誰かが来たら

すぐに解放させられるでしょうが。

…ところでガイ。どうしたのです?」

「ちょっと、な。

あんなところで取り乱して悪かったな」

ガイは申し訳さなさそうに頭をおさえた。

「何があったかはルーク達が来たら話すよ。

二度手間になるしな。

まあ

君達のおかげで説明するのは慣れたがな」

そう言ったガイは微笑み

未来は安心した。

「みんなが来たわ」

「パメラさんは?」

礼拝堂の重い扉を開いてルーク達が入ってきた。

「もう大丈夫みたいだ」

「そう…よかった」

もう一度未来は安心する。

「ガイは…大丈夫なのか?

何か思い出したみたいだったけど…」

「ああ。すまないな」

「何を思い出したか聞いてもいいかしら」

ティアの言葉にガイはうなづき

ゆっくりと話し始めた。

「俺の家族が…殺された時の記憶だよ」

ガイはホド戦争でせめこまれた時

姉上やメイド達に助けてられたが

彼女達の遺体の下で気を失い

その時の記憶を失ったという。

「そんな…」

「あなたの女性恐怖症は

その時の精神的外傷ですね」

未来は絶句し、ジェイドは淡々と言った。

「そんなことがあったなんて…

それなのに私

あなたが女性を怖がるの面白がっていましたわ。

ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

ナタリアとアニス、そして未来も謝った

未来は初めてガイと会った時

自分のことは兵士と扱えと言った。

酷だっただろう。

「私も謝らないといけないわ。

本当にごめんなさい」

ティアも頭を下げたが

「何言ってるんだよ。

キミ達が謝ることじゃない」

ガイの表情は過去を断ち切ったかのように清々しく

シェリダンへ急ぐことになった。


to be continued

前のお話 次のお話

TOPへ戻る

しおりを挟む