第三十九話「禁書」


ベルケンドに到着し

スピノザをみつけることになった。

彼がいるであろう第一音機関研究所の前へ

たどり着いた時だった。

「バチカルでは派手にやってくれたそうですね」

神託の盾兵士は、ルークがアッシュだと間違えた。

「ヴァンに会う絶好の機会です」

「間違えたのはあちらだしね」

兵士に聞こえないようにジェイドと未来が

ルークに言った。


通された部屋にヴァンとリグレットがいた。

「ローレライを消滅させねば

この星は預言に縛られ続けるだろう。

人間はレプリカで代用すればいい」

ヴァンは誇り高そうに、自らの野望を語った。

そこにアッシュが駆け込んでくる。

アッシュを必要とし

ルークは捨て駒だ、とヴァンは言い切った。

「その言葉、取り消して!」

怒り出したティアはナイフを構えるが

リグレットがヴァンとティアの間に入った。

「ルークは捨て駒なんかじゃないわ!」

しかし未来も短剣を取り出してしまう。

はりつめた空気が部屋に満ちた。

「未来!ティア!武器を収めなさい」

「そう、たとえ相撃ちでもダメだ」

しかしジェイドとガイが二人を止め

「…ごめんなさい。取り乱したわ」

未来は大人しく短剣をしまった。

「主席総長のお話は終わった。

立ち去りなさい」

そしてリグレットの言葉に

全員が従うしかなかった。


「アッシュ…

バチカルでは、助けてくださってありがとう」

スピノザを探すどころではなくなり

第一音機関研究所を出ると

ナタリアがアッシュにお礼を言った。

「導師に言われて仕方なく助けてやっただけだ」

しかしアッシュはナタリアを見ようとしない。

「でも、その割には必死だったわ」

「だ、黙れ!堕天使!」

未来にからかわれたアッシュは背を向けて

少し歩いた後、顔だけで振り返った。

「お前達に渡すものがある。宿まで来い」

それだけを言い捨てて

アッシュは宿の方向へ歩いて行った。

「なんだよ、ここで渡せばいいのに」

「重要なものなのでしょう、行きましょう」

嫌がるルークをジェイドがなだめた。


宿にはアッシュとノエルがいた。

「ノエル!無事だったのね!」

「はい!アッシュさんに助けてもらいました」

怪我一つないノエルに未来は安心し

そんな彼女にノエルは微笑んだ。

しかしアルビオールは飛行譜石を奪われたようで

水上飛行しかできないという。

そしてアッシュはジェイドに

「導師から渡すように頼まれた」

と大きな本を渡した。

「これは創世暦時代の歴史書…

ローレライ教団の禁書です」

預言に反しているから禁書とした本を

イオン様はジェイドに託したかったのだろう。

禁書を解読するのはジェイド以外には不可能で

ジェイドが言った明日の朝まで待つことになった。


コンコンコン

ジェイドがいる部屋の扉を

未来はノックをした。

「…はい」

「お疲れ様、ジェイド」

ジェイドが扉を開けると

未来は湯気がたっているコーヒーを見せた。

「淹れてくれたのですか?」

「ええ。

あんな分厚い本を読むのは大変でしょう?」

「…ありがとうございます」

にこりと笑って差し出されたコーヒーカップを

ジェイドは受け取った。

「あまり無理しないでね…それじゃ」

未来は長居してジェイドに迷惑はかけたくなく

その場を去ろうとしたが

「待ってください」

コーヒーカップをちょうどあった棚に置き

ジェイドは思わず未来の腕を掴んだ。

『行ってほしくない』

そんな気持ちがジェイドを襲った。

「ジェイド?!」

「未来…私は…私は…!」

ジェイドがそこまで言うと

コツコツと他の人の足音が聞こえ

ハッとジェイドは我に返った。

「すみません」

謝り、ジェイドは手を離した。

「…え、ええ…」

未来は不思議そうにジェイドを見た。

「コーヒー、ありがとうございました。

貴女は早く休んでください」

「ジェイド…」

「おやすみなさい」

そう言ったジェイドは扉を閉めた。

しばらくその場に立っていた未来だったが

仕方がなく自分の部屋へ戻った。

ジェイドは扉に寄りかかって

未来の小さくなる足音を聞いた。

「…なんとか紳士でいられました…かね」

ジェイドはため息をついてからコーヒーを見た。

彼女のささやかな親切が心から嬉しくて

自分は本当に惚れているのだな

と改めて想うのだった。


翌朝。

禁書を持ちながらジェイドはロビーに行き

ルークを除いた全員が、それを待っていた。

寝坊したらしいルークが部屋から出てきて

ジェイドは説明を始めた。


魔界の液状化の原因は

惑星の中心部・地核が振動しているから

何も手出しが今までされていなかったのは

その原因が

プラネットストーム

(人工的な惑星燃料供給機構)

だからだろう

プラネットストームを停止しては

譜業も譜術も効果が極端に弱まる

音機関も使えなくなる

パッセージリングも完全停止してしまう

しかしそれなら

プラネットストームを維持したまま

地核の振動を停止すればいい

その草案は渡された禁書に書かれている

セフィロトの暴走の原因がわからない以上

液状化を改善して外殻大地を降ろすしかなく

音機関の復元のために

研究者に協力をお願いしなければならない


「だがここの研究者は

みんな父上とヴァンの息がかかっている」

「ち、父上ぇ?!」

初めて聞くアッシュの言葉に

ルークは驚くことしかできなかった。

「なんだ!?何がおかしい!」

「へえ〜。

アッシュってやっぱり

貴族のおぼっちゃまなんだぁ」

アニスの言葉を聞いたアッシュは顔をしかめ

「散歩だ」

と宿を出て行ってしまった。

「アニス、アッシュを怒らせちゃったわね」

笑いながら未来はアニスを見て

「えへ〜、失敗失敗」

アニスも笑顔で反省の色をしめさない。

「可愛いところがあるじゃないですか」

ジェイドも面白いものを見た、という顔をする。

「もう!彼をからかうのはおやめになって!」

そんな中、ナタリアだけは注意をした。

しかしアッシュの言った通りでは

この街の研究者の協力を得るのは難しいのでは?

とティアは心配したが

ガイはヘンケンという研究者を探せばいいと言う。


「知事には内緒で仕事を受けるだと?

お断りだ」

ヘンケンと相棒のキャシーは

第一音機関研究所の奥にいた。

ガイの依頼にヘンケン達は首を横に振る。

「へえ

ならこれはシェリダンのイエモン達に任せるか」

「い、イケモンだと?!」

しかしイエモンの名を聞いて

急にヘンケンは態度を変えた。

「俺達『ベルケンドい組』は

イエモン達『シェリダンめ組』に

99勝99敗

これ以上まけてたまるか!」

「大丈夫。

知事の説得は私達にまかせてちょうだい」

「よし、行くぞ。キャシー!」

そう叫びヘンケンとキャシーは外へと出て行った。

「走って行っちゃった…。

ずいぶんお元気な方達なのね」

未来は苦笑いをし

「やれやれ。

では作戦の説明は知事の前で行いましょう」

ジェイドも肩をすくめた。


「ルーク様…」

知事の屋敷に入ると

ルークとナタリアは警戒をしたが

知事は承諾してくれるらしい。

「では簡単に今までのことをご説明いたしましょう」

「ええ。それはガイが喜んで」

ジェイドと未来は笑顔でガイを見た。

「君達、なんだか似てきたな」

そう言ったガイが説明をすると

知事は信じがたいとため息をついた。

そんな知事を気にせず

まずは地核の振動周波数を調べることになった。

ヘンケンが復元してくれると言った計測装置を

セフィロトツリーへ入れればわかる

とジェイドは言う。

しかしそのためにはまだ魔界へ降下してない

外殻大地のセフィロトへ行く必要があった。

全員がセフィロトの場所を知らず

場所を知っているかもしれないイオン様に協力してもらうため

ダアトへ行くことになった。

「ちょっと待って!」

次の行動が決まった直後

未来は外へ意識を集中させた。

「どうしたんだ、未来」

「誰かいるわ」

そう言った未来が屋敷のドアを勢い良く開くと

探していたスピノザが逃げて行った。

「あ、あなたは!!」

「今スピノザが逃げて行ったぞ?」

未来が追いかけようとすると

アッシュがこちらに歩いてきた。

簡単な説明を聞くと

アッシュはスピノザを追いかけると言う。

しかし一緒に…と誘うルークに

「馴れ合うつもりはない!」

とアッシュは吐いて

ベルケンドを出て行った。

「あったまきた!

あいつより先にスピノザを見つけてやる」

「さ、ノエル。ダアトまでお願いね」

怒り出したルークを無視し

未来はノエルへお願いをした。

「え?でも…」

ノエルは当然戸惑う。

「なんだよ、未来!

ダアトに行くついでに

ちょっと他の街に立ち寄って調べる分には

いいだろ?」

「だめよ」

まだ怒りが収まらないルークを

未来は冷たく一蹴した。

「未来、厳しいね」

「いえ、私も未来に賛成だわ」

「そういうことでノエル。

未来の言う通り、ダアトへ急いでください」

アニスはため息をついたが

ティアとジェイドは未来の注意に賛同した。

「は、はい」

そうしてルークの気持ちを無視し

水上を超えてダアトへと向かうのであった。


to be continued

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