第三十七話「偽王女事件」


バチカルに着くと、ナタリアとルークは

おそらく処刑されるために連行され

止めようとした未来達は牢へ監禁された。

「未来!どうにかして!」

今にもナタリア達が殺されるかもしれない事態に

アニスが焦り始めた。

「そうね!譜術で柵を…!」

「ダメです。

この牢は譜術を無効化する仕掛けが施されています」

詠唱しようとした未来をジェイドが止める。

「でも、どうしたら…」

「ん?なんだ、お前は」

未来が困ると監視をしていたキムラスカ兵が

外へ警戒した。

「うるせえ!そこをどけ!!」

そう叫び、兵士を倒したのは

「アッシュ?!」

「ふん」

赤い髪が目立つアッシュだった。

「こんなところで無様だな」

「おいおい。

そんなことを言うために来たのか?」

「そんな風に見えるか?」

ガイの嫌味を無視して

アッシュは倒した兵士から牢の鍵を取り出した。

「私達を助けてくれるの?」

牢の鍵を外したアッシュに、ティアは驚いた。

「ああ。早く行け!」

ガシャンと音を立て、牢は開かれた。

「ありがとう、アッシュ」

「お前のためじゃない」

「相変わらずのツンデレですね」

お礼を言った未来から目をそらし

ジェイドは笑った。

「大佐〜。

そんなこと言っている暇はありませんよ」

「そうだぜ。

ルークとナタリアは処刑されるはずだ」

「失礼しました」

そう言いながら全員が牢を出て

取り上げられた武器を手にした。

「おい…未来…」

「え?」

外へ出ようとした未来は

アッシュに呼び止められ

驚いて彼を見る。

「俺は他にやることがある。

あいつを…ナタリアを頼んだ」

「アッシュ…わかったわ」

アッシュのナタリアへの愛情を感じ

未来は力強く頷いた。


「陛下にはワインで安らかに眠った

と報告します」

「まずい!」

ナタリアの私室から、陛下の側近の声を聞き

ティアは譜歌を歌い、そんな彼らを眠らせた。

「間に合ったわね」

安心したティアが部屋に入り

他のメンバーも同じようにした。

ジェイドと未来はさらなる兵が来ないか

警戒するために扉のすぐそばに控えた。

そのまま逃げようとしたが

ナタリアの切望で

インゴベルト陛下に会うことになった。

「できればすぐにも逃げたいけれど…」

「危険だけは覚悟してください」

「ありがとう」

未来とジェイドは渋々了承し

ナタリアはお礼を言った。


謁見の間には、やはりモースやディスト

そしてラルゴもいた。

「お父様!

私は本当に

お父様の娘ではないと仰いますの!?」

ナタリアにそこにいたモース達が宣言した。


ナタリアは本当は

亡き王妃様に仕えていた使用人

シルヴィアの娘メリルである

本物のナタリアは死産で

心が弱っていた王妃様に

乳母は数日早く誕生していた

自分の娘シルヴィアの子を

王妃様に捧げたという


「そ、それは本当ですの、ばあや」

「今更見苦しいぞ、メリル。

おまえはアクゼリュスへ向かう途中

自分が本物の王女でないことを知り

実の両親と引き裂かれた恨みから

アクゼリュス消滅に荷担した」

今にも泣きだしそうなメリルと呼ばれたナタリアに

モースは指を差し

それが真実だという顔をした。

「ち、違います!そのようなこと…!」

「インゴベルト陛下!本気ですか!

そんなありもしない話を

本気で信じておられるのですか!」

偽りの罪をナタリアは着せようとされ

耐えきれなくなった未来は

インゴベルト陛下に叫んだ。

「わしとて信じとうはない、堕天使未来。

だが…」

「も、もしもそれが本当でも

ナタリアはあなたの娘として育てられたんだ!

第一

有りもしない罪で罰せられるなんておかしい!」

「ルーク…」

言い淀んだインゴベルト陛下に

ルークはきっぱりと言い

戦争を止めるためにここに来た時の長髪の彼からの成長に

ティアが名前をつぶやいた。

「他人事のような口振りですな。

貴公もここで死ぬのですよ。

アクゼリュス消滅の首謀者として」

誇り気にモースはルークに近づき

「そちらの死を以て

我々はマルクトに再度宣戦布告する」

インゴベルト陛下もうなずいた。

「あの二人を殺せ!」

「逃げましょう!!」

モースはディスト達に命じ

未来は後ろを見ずに走ろうとした。

そこにアッシュが駆け込んだ。

「アッシュ!ちょうどいい!

そいつらを捕まえなさい!」

「ル…アッシュ…」

あなたまで自分を否定するのか、と

ナタリアは絶望した。

「せっかく牢から出してやったのに

こんなところで何をしてやがる!

さっさと逃げろ!」

しかしアッシュはナタリアではなく

ディストに剣を向けた。

「ご無事で!」

ナタリアはアッシュを信頼し

今度こそ逃亡のために走り出した。


城を出て

アッシュが手配したらしいペールの協力もあり

ナタリアは昇降機を使い

バチカルの出口まで走り抜けた。

「ええい!待て!逆賊共!」

しかし先に昇降機を降りたナタリアとルークは

多数のキムラスカ兵に囲まれてしまう。

「ルーク!!!」

その光景を離れたところから見たティアは

ルークの名を叫び

柵から落ちそうな勢いで手をのばした。

しかし

ルークとナタリアを殺そうとしたキムラスカ兵に

棒などを持ったバチカルの民が阻止をした。

「ナタリア様!お逃げください!」

「な、何故私を…!」

信じられない想いでナタリアは聞いた。

「サーカスの連中から聞いたんです!

姫様が無実の罪で処刑されようとしているって!」

「サーカス?」

「もしかして…」

「さ!姫様をお守りするんだよ!」

未来とジェイドの疑問に応えるように

もう顔なじみになりつつある漆黒の翼のノワールが

民達に指示を出していた。

「あの人達…」

感心したようにアニスが笑った。

「待て!

その者は王女の名を騙った大罪人だ!

即刻捕らえて引き渡せ!」

このまま助かりそうだったナタリアと民に

ゴールドバーグが厳しく命じた。

「そうです!

どうか逃げて!」

「ナタリア様が王家の血を引こうが引くまいが

俺達はどうでもいいんですよ」

ナタリアの制止の声を聞かず

男の人がナタリアを振り返って笑った。

「わしらのために

療養所を開いてくださったのは

あなた様じゃ」

「職を追われた俺達平民を

港の開拓事業に雇ってくださったのも

ナタリア様だ」

他の民も、ナタリアを優しい目で見つめた。

「ええい、うるさい!どけ!」

しかしゴールドバーグは邪魔をする民に

遂に剣を抜いた。

しかしその剣は駆け付けたアッシュにより

弾き飛ばされた。

「…屑が。

キムラスカの市民を守るのが

おまえら軍人の仕事だろうが!」

アッシュはゴールドバーグをにらみつけた。

「ここは俺達に任せろ。

早く行け、ナタリア!」

「…アッシュ…」

「おまえは約束を果たしたんだな」

アッシュはこの状況にも関わらず

ナタリアに微笑んだ。

「アッシュ…『ルーク』!

覚えてるのね!」

優しいアッシュにナタリアは

今までこらえていた涙を流した。

「行け!

そんなしけたツラしてる奴とは

一緒に国を変えられないだろううが!」

「!!…わかりましたわ」

ナタリアはアッシュに背を向けた。

「ルーク!

ドジを踏んだら、俺がおまえを殺す!」

「けっ。おまえこそ無事でな」

走り始めたルークにアッシュは叫び

ルークは初めてアッシュに笑った。

民の歓声をうけて

ナタリア達はバチカルを出て

歓声に混ざった助言通りに

イニシタ湿原へ向かった。

「よかったわね、ナタリア」

「ええ!」

不謹慎と思いつつ

民とアッシュに愛されているナタリアに

未来は笑い

ナタリアも同じように笑ってうなずいた。


to be continued

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