第三十六話「狂った預言」


イオン様の私室につながっている譜陣に

アニスが

『ユリアの御霊は導師と共に』

と唱えると、私室へ続く廊下に通じていた。

しかし部屋にはイオン様はいなかった。

「しっ、静かに。誰かくるわ!」

かすかに聞こえる足跡に

ティアがそう言い、未来も警戒をした。

「隠れよう」

ガイが扉を開き、全員が奥の部屋に入った。


「ふむ…誰かここに来たと思ったが…

気のせいだったか」

「それより大詠師モース。

先ほどのお約束は本当でしょうね。

戦争再開に協力すれば

ネビリム先生のレプリカ情報を…」

私室にやって来たのはモースとディストらしい。

「あの二人…!」

「未来、落ち着いて!」

不快感をあらわにした未来を

アニスがなだめた。

「わかっている。でも…」

「ディストをぎったぎたにする機会は

またありますよ」

小さな声で囁くようにジェイドが言った。

「ジェイドが言うと、本当にそうなりそうだな」

ガイは苦笑した。

その間にも二人の会話は続き

ディストはレプリカ情報をもらうために

戦争を起こそうとするモースに加担しているようだった。

二人はイオン様がいる図書室へ向かい

未来達も急いで追いかけた。


「皆さん!?どうしてここに…」

図書室にはイオン様がいたが

モースとディストの姿はなかった。

「イオン、教えてくれ!

ユリアの預言には、セフィロトの暴走について

詠まれてなかったのか?」

ルークは急いで聞いた。

「どういうことですか?」

「はい、未来。説明を」

不思議そうな顔をしたイオン様を見て

ジェイドは未来に言った。

「え?それはガイの仕事でしょ?」

「なんでだよ…まあ、いいや」

名指しされたガイは渋々説明をした。


「なるほど。それは初耳です。

実は、僕は今まで

秘預言を確認したことがなかったんです」

「え!?そうなんですか?」

導師であるイオン様が預言を知らないことに

アニスは驚いた。

「ええ。

秘預言を知っていれば

僕はルークに出会った時

すぐに何者かわかったはずです」

イオン様はルークを見て言い

ルークは黙ってうつむいた。

「ですから僕は秘預言を全て理解するために

ダアトへ戻ったんです」

「でも秘預言に、セフィロトの暴走のことは…」

「ええ、詠まれていなかった筈です。

念のため、礼拝堂の奥へ行って

調べてみましょう。

そこで預言を確認できますから」

ナタリアにイオン様は複雑な表情を見せた。


「イオン様…

預言を詠むのにお体への影響はないのですか?」

「大丈夫ですよ、未来」

礼拝堂へ向かいながら

未来は心配そうに聞いたが

イオン様は笑った。


「量が桁違いなので

ここ数年の

崩落に関する預言だけを抜粋しますね」

礼拝堂に到着すると

イオン様は譜石に手をかざした。

すると譜石は光り

イオン様は詠み始めた。


「ND2000。

ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。

其は王族に連なる赤い髪の男児なり

名を聖なる焔の光と称す。

彼はキムラスカ・ランバルディアを

新たな繁栄に導くだろう。

ND2002。

栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす。

名をホドと称す。

その後、季節が一巡りするまで

キムラスカとマルクトの間に戦乱が続くであろう。

ND2018。

ローレライの力を継ぐ若者

人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。

そこで若者は力を災いとし

キムラスカの武器となって街と共に消滅す。

しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ

マルクトは領土を失うだろう。

結果キムラスカ・ランバルディアは栄え

それが未曾有の繁栄の第一歩となる」

そこまで詠むとイオン様は手を離し

しゃがみこんだ。

「イオン様!」

アニスがイオン様へ駆け寄った。

未来も同じようにイオン様に手を添える。

「大丈夫ですか?!

やはりお体に…」

「いえ…平気です。

…これが第六譜石の崩落に関する部分です」

膝をついたままイオン様は無理をして笑った。

「やっぱり

アクゼリュス崩落と戦争のことしか詠まれてないな」

「もしかしたら、セフィロトの暴走は

第七譜石に詠まれているかも知れないな」

「ローレライの力を継ぐ者って…」

「今は新暦2018年です。

2000年と限定しているのだから

これはアッシュでしょう」

「でも…

アクゼリュスへ行ったのはルークでしょ?

この預言、おかしいわ」

未来がそう言うとジェイドもうなずいた。

「ユリアの預言にはルークが…

レプリカという存在が抜けているのよ」

「それってつまり、俺が生まれたから

預言が狂ったって言いたいのか?」

ティアの指摘に

ルークはショックを隠し切れない。

その時、神託の盾兵が礼拝堂に乱入してきた。

ティアが一人を倒し

ジェイドと未来も兵士の前で

攻撃を仕向けようとした。

「皆さん、逃げてください!」

しかしイオン様が叫び

「アルビオールへ戻りましょう」

ジェイドも焦りがにじんだ声で言い

イオン様以外の全員が走り出した。


しかしダアトの街の出口には

モースと多くの神託の盾兵が待ち伏せていた。

「大詠師モース。

もうオールドランドは

ユリアの預言とは違う道を歩んでいます!」

ティアはモースに叫び

ジェイドと未来は詠唱を始めた。

「黙れ、ティア!

第七譜石を捜索することも忘れ

こやつらとなれ合いおって!」

モースは一歩も引かない。

「唸れ烈風!大気の刃よ…」

「抵抗はおやめなさい。

ジェイドに…未来でしたね?」

未来が詠唱をしながら振り返ると

ディストは珍しく自分で立ち

ディストの椅子には

気絶したノエルが座らせられていた。

「さもないとこの女の命はありませんよ」

「くっ…!

アルビオールがあったから

私達がいるとわかったのね」

仕方がなく未来とジェイドは詠唱を止めた。

「はーっはっはっは!

いいざまですね、ジェイド」

神託の盾兵に囲まれ

剣を向けられたジェイドにディストは笑ったが

「お褒めいただいて光栄です」

ジェイドはいつもの調子だった。

しかし抵抗はできず

未来達はバチカルへの船に乗せられた。


「俺達はどうなるんだ?」

「ルークは処刑されるのでしょうね。

預言通りにするために」

ルークを見ないでジェイドは言った。

「…その方がいいのかもな」

「ルーク、何を言ってるの!馬鹿!」

あきらめたように言ったルークに

ティアは叫んだ。

「ティア…!?」

ルークにティアは珍しく怒鳴り

未来は驚いた。

「あなた、変わるんじゃなかったの!?」

「ティア…ごめん」

ルークは謝り、部屋には沈黙が訪れた。

「ちょっと外へ出るわ。

船の中なら咎められないでしょう」

沈黙を破った未来は船室を出た。

未来が窓から外を見ると

バチカルが見えてきた。

「…未来」

「ジェイド?」

ジェイドが未来を追いかけるように部屋を出てきた。

「どうしたのです、不安そうな顔をして…」

心配しながらジェイドは未来に近づく。

「ジェイドには、なにもかもお見通しなのね。

…さっきイオン様が詠んだ預言…

マルクトが領土を失うって…!

我が軍が負けるなんて!」

「そうですね。

戦争はどちらかが勝ち、どちらかが負ける。

負ければ領土も失うでしょう」

動揺を始めた未来とは反対に

ジェイドは淡々と話した。

「そうだけど…!」

そこまで未来が言うと

ジェイドはそんな彼女の頭に手を乗せ

銀色の未来の髪をなでた。

「だから戦争を止めなければいけないのです。

私も、貴女を悲しませたくありません」

「ジェイド…」

未来はうなずき

ジェイドと一緒に部屋へ戻った。


to be continued

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