第三十二話「ナタリアの困惑」


「あれは!」

「ナタリア?!」

「ルーク!未来!」

ケセドニアで出会ったのは

停戦を求めるためにカイツールへ行った筈の

ナタリア達だった。

総大将のアルマンダイン伯爵を追いかけて

ケセドニアまで来たらしい。

お互いに戦場を駆け抜けてきたことに

驚き焦ったが

まずは停戦の説得をすることになった。


「未来…大丈夫でしたか?」

「え?!」

イオン様に声をかけられて

未来は振り返った。

「心配していました。

未来なら平気とも思いましたが

エンゲーブは危なかったでしょう?」

「イオン様…ご心配ありがとうございます。

見ての通り無事ですよ。

ですが導師に気にかけていただくなんて…

光栄です」

「未来

僕にかたくならなくてもいいのですよ?

僕達は仲間ですから」

「イオン様…」

戦場を歩いてきたイオン様の疲労の色は濃かったが

休めと言っても聞かないだろう

と未来は思った。

なによりイオン様の気遣いが嬉しかった。


「アルマンダイン伯爵!

これはどういうことです!」

ケセドニアにナタリアの凛とした声が響いた

「ナタリア殿下!?」

亡くなったはずのナタリアに

モースと歩いていたアルマンダインは驚いた。

そんなアルマンダインに

自分は生きている

この戦いは無意味だ

とナタリアとルークが説得した。

マルクト兵である未来とジェイドは

それを見守ることしかできなかった。

(でも、これならきっと…)

「さあ!

戦いをやめて、今すぐ国境を開きなさい!」

未来は思い、ナタリアは命じた。

しかし

アルマンダインがなにかを言いかけた時だった。

「待たれよ、ご一同。

偽の姫に臣下の礼をとる必要はありませんぞ」

それまで黙っていたモースが

アルマンダインに近づいた。

「無礼者!」

ナタリアの怒りにモースは平然と説明する。


自分の侍女の子供を王女殿下とすり替えた

という懺悔を私は受けていた。

ナタリアは金色の髪の色だが

キムラスカの王家に連なるものは

赤い髪と緑の瞳であり

亡き王妃様は黒髪だった。

このことは、インゴベルト陛下にも

証拠の品を添えて報告してある。


「バチカルに行けば

陛下はそなたを国を謀る

大罪人としてお裁きになられましょう」

「そんな…そんな筈ありませんわ」

ナタリアも全員も動揺した。

アルマンダインと共にモースは去ろうとしたが

ルークは戦場の崩落を警告する。

しかしモースは戦争が起これば預言はかなう

と聞かなかった。

そしてイオン様もダアトに戻ると言い

モースについて行こうとした。

焦ったアニスだったが

イオン様に

導師守護役からの解任を宣言されてしまう。

「ルークから片時も離れず御守りし

伝え聞いたことは

後日必ず僕に報告してください」

小声で言ったイオン様の言葉は

隣にいた未来にも聞こえ

アニスがハッとイオン様を見たのを

未来は不思議そうに見た。

そのままイオン様は国境を越えて

ダアトへ向かった。


「イオンの奴、何考えてんだ」

ルークは呆然とするしかなかった。

「アニスをここに残したということは

いずれは、戻られるつもりなのでしょう」

「そうね、それより…」

未来がそう言ってナタリアを見た。

みんなに見られたナタリアの顔は

青白かった。

「私なら、大丈夫です。

それよりもバチカルへ参りましょう。

もはやキムラスカ軍を止まられるのは

父…いえ国王陛下だけですわ」

「ナタリア、きっとなにかの間違えよ!」

「そうだ、モースのでたらめだ!」

父と呼ぶのをやめたナタリアに

未来とルークが駆け寄った。

未来は慰めようとナタリアの両肩に手を添える。

「ありがとう。未来…ルーク…」

ナタリアの肩は震えていた。


to be continued

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