第三十一話「心配と残酷な言葉」


エンゲーブを出発しても

キムラスカ軍は現れなかった。

「見当たらないわね」

「まだ戦線が北上していないのでしょう。

かと言って油断はできませんが」

ジェイドはそう言って前だけを見たが

背後にもすぐに攻撃できるように集中した。

未来もいつでも戦える構えをとった。


しばらくすると辺りは暗くなり

今日は野営をすることになった。

「なんとか無事に進めたな」

「そうね。ルークもティアも頑張ったわ」

「わ、私は別に…」

三人はお互いをねぎらったが

ジェイドの表情は晴れない。

「お疲れ様でした。

しかし

まだ行程の三分の一も終わってません」

「そんなにあるのかよ」

ジェイドの言葉にルークはため息をついた。

そこに男性がやって来た。

タルタロスに乗っていた

ジェイドの副官のマルコの父親らしい。

彼はマルコが副官になったと聞いて喜んだが

戦死したと知り、絶句した。

「お父様、私が…非力でした」

未来が悲痛に言うと

彼はマルコは預言に

軍人になるようにと詠まれたとこぼし

去っていった。

「預言に見殺しにされたようなものじゃんか!

それじゃ、アクゼリュスと同じだ!!」

ルークの怒りの声は夜空に消えた。


翌朝。

「よーし!出発しようぜ!」

「張り切っているわね、ルーク」

昨夜と違ったルークの元気がみんなにも伝わり

意気揚々と歩き始めた。


「未来中佐!」

歩いている途中

一人のマルクト兵が未来の隣を歩き

話しかけてきた。

「ああ…あなたは確かエンゲーブで…」

未来に憧れていると言った兵士だった。

「覚えてもらってたんですか?

嬉しいです。

本当に中佐はマルクト兵の憧れの的ですから!」

「そ、そんなことないわよ」

大きくなった話に、未来は焦り始めた。

「いいえ、真実です。

それより、恐れ多いことですが

今度ぜひ手合わせを!

で、できれば食事とかも…」

「未来!」

さらに加熱するマルクト兵の話を遮るように

ジェイドが未来を呼んだ。

「転んでケガをした方がいます。

治癒術を!」

「は、はい!」

未来は逃げるようにジェイドに駆け寄った。


ジェイドの言う通り

戦線が北上していないのか

今日もキムラスカの兵士に見つからずに

野営することができた。

その時

治癒術師はいないかと尋ねてくる人がいた。

彼の隣には

足をくじいたらしい女性が立っている。

彼女はアクゼリュスで旦那と子供を失っている

と話した。

「あ、あの…」

「お気の毒です。しかし…」

「あなたは生きなければなりません。

亡くなった家族の分も」

謝罪をしようとしたルークの声を

ジェイドがさえぎり

そのジェイドの声も、未来が重ねた。

「ジェイド!未来!

どうして謝らせてくれなかったんだよ!」

二人にルークは非難をした。

「ごめんなさい、ルーク。

でも今は、無駄な混乱は避けたいの」

「そうですよ。

謝罪は自由ですが、時と場所ぐらいは

わきまえてもらいたいですね」

そう言われるとルークは黙るしかなかった。

「ティア、あちらで彼女の治癒を。

私は未来と話があります」

「え?私?!」

そう言って未来は

ジェイドに、半ば強引に手を引かれた。


「ジェイド、話って?」

村人達から離れた場所で

ジェイドは未来の手を離した。

「それは貴女もわかっているでしょう?

なぜ私の代わりに

残酷なことを言ったのです」

今夜も昨日も未来は

ジェイドが言うであろう言葉を発していた。

「ばれていたのね。

ジェイドだけ悪者にはできないわ」

そう未来が言うと

ジェイドはため息をついた。

「気持ちは嬉しいですが、私は軍人です。

慣れています」

「あら、忘れたの?私も軍人よ?」

「そう…ですね」

そう言ってジェイドは言葉をにごした。

「けれど、貴女には似合わない。

悪者は私一人で十分ですよ」

ジェイドはメガネを押さえた。

「それより昼間の兵士のことですが…」

「ああ、彼のことね。

二回もジェイドの言葉に助けられたわ。

ありがとう」

そう言って未来はお辞儀をした。

「全く…

何度も言いますが、貴女には隙が多すぎる。

あまり心配させないでください」

「え?」

未来が聞き返すと

ジェイドは焚火に向かって歩き始めた。

「ここは暗くて危険です。こちらに…」

「…ええ」

未来は焚火に照らされるジェイドの顔を見た。

(こういう気持ちは久し振りだわ)

自分の顔がほころぶのを、未来は感じた。


三日目。

砂漠の先にケセドニアが見えてきて

村人達は歓声をあげた。

しかしその声に引き寄せられるように

魔物が襲ってきた。

「出でよ、敵を蹴散らす激しき水塊!

セイントバブル!!」

村人を怖がらせないために

ジェイドは跡形もなく魔物を消し去った。

「魔物にも警戒しなければいけませんか」

槍をしまい

ジェイドはやれやれという顔をした。

「お疲れ様、ジェイド。

でも、あの威力の譜術を使えるということは…」

「ええ、封印術は完全に解除できました」

ジェイドが今度は晴れやかな顔で

未来に頷いた。

「本当か?!」

「よかった…」

封印術をジェイドが受けたのは

自分のせいだ

と思っていたルークと未来が喜んだ。

「おめでとうございます、大佐。

さあ、ケセドニアへ向かいましょう」

さらなる魔物の姿がないか確認したティアが

先を急がせた。


そして遂にケセドニアに到着した。

村人が次々とお礼を未来達に言う。

「よかった、本当に…」

「ああ、ホントだよ」

未来とルークは笑いあった。

「転んだなどでケガをした人はいますが

重大な負傷者や死者はいません。

よくやりましたね」

「ジェイドが、みんながいてくれたからだよ」

「褒めてもなにも出ませんよ?」

「大佐ったら…」

一同は再び笑った。


to be continued

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