第二十五話「森を抜けて」


工事中のローテルロー橋にタルタロスを停泊させ

マルクト領土のテオルの森にやって来た。

「何者だ!」

森に入ってすぐにマルクト兵が

威嚇するように言った。

「私は

マルクト帝国軍第三師団所属師団長

ジェイド・カーティス大佐だ」

「マルクト帝国軍第一師団所属未来中佐よ」

「カーティス大佐に未来中佐!?

お二人はアクゼリュス消滅に巻き込まれたと…」

突然の二人の登場に、周りにいた兵士も驚き

こちらに注目した。

「私達の身の証は

ケテルブルクのオズボーン子爵が保証する」

「皇帝陛下への謁見を希望します」

未来達は毅然と言ったが

「お二人でしたら、ここをお通しできますが…」

兵士は後ろにいるルーク達を見て

再び警戒した。

「えーっ!

こちらはローレライ教団の導師イオン

であらせられますよ」

「通してくれたっていいだろ!」

アニスとルークが文句を言ったが

その場にいた兵士全員は首を縦に振らない。

「いえ。これが罠だとも限りません。

たとえダアトの方でもお断りします」

そう言った兵士の厳しい声は和らがなかった。

「仕方ないわね…。

みんなはここで待っていてくれる?」

「私達が陛下にお会いできれば

すぐに通行許可を下さいます」

未来とジェイドが

申し訳なさそうにルークを見た。

「それまでここに置いてけぼりか。

まあ仕方ないさ」

「それではご案内します」

ガイのこぼした言葉には反応せず

兵士は歩き出し

未来達も後に続いた。


「私達しか通せないなんて

思っていた以上に緊迫しているわね」

「そうですね。早く陛下に会いましょう」

マルクト兵を先頭に歩き始めた未来とジェイドはそう話したが

兵士達の警戒が伝わったように

その後は二人も沈黙した。


「まずいですね。

街中がどことなく享楽的で落ち着きがない」

再びジェイドが口を開いたのは

グランコクマの街並みにたどり着いた時だった。

「…争いが起きる前兆かもしれないわ」

未来は小声で言い

マルクト兵に急ぐように命じた。


「よお!ジェイドに未来!!」

謁見の間にたどり着いた二人に

ピオニー陛下は安心したように笑った。

「陛下、ご心配をおかけしました」

未来は一礼して詫びた。

「全くだぜ。

お!なんだ?

ジェイドは珍しく疲れているのか?」

さすが親友と言うべきか。

ジェイドの体力の減少に

ピオニー陛下は気が付いた。

「彼は、私をかばって

封印術にかけられたのです」

未来はそう説明しながら眉間にしわを寄せた。

封印術によるジェイドの変化には

彼女はいつも辛い顔をするしかなかった。

「なっさけないな〜。

まあ、とりあえず事情を話せ」

ジェイドにニヤリと笑ってから

ピオニー陛下は真剣な表情になった。

「では、未来?説明を」

「やっぱり私なのね…」

予想していたが未来は苦笑いをして

説明を始めた。


ルーク達の迎えをフリングルズ少将に命じて

ピオニー陛下はため息をついた。

「なるほど、厄介なことに巻き込まれたな。

しかも、フォミクリーか…」

そう言いながらピオニー陛下はジェイドを見て

ジェイドはメガネを押さえた。

「陛下、ジェイドは…」

「いいのです、未来。

フォミクリーについては

私が罰せられるべき過去です」

未来がジェイドをかばおうとしたが

ジェイドはそれを止めた。

「でも…!」

未来が言いかけた時

「では、私はここで。

軍の様子を見てきます」

ジェイドは謁見の間を後にするために歩き始めた。

「こいつは驚いたな」

ジェイドが閉めた扉を見つめて

ピオニー陛下は呟いた。

その顔は、何かを企んでいるようだ

と未来は思った。

「何のことですか、陛下?」

「いや。

未来はこういうことには

前から鈍感だったからな」

さらに面白そうにピオニー陛下は笑った。

「鈍感、ですか?」

「ああ。追及は勘弁してくれよ?」

ピオニー陛下は説明する素振りは見せず

「そう、ですか…。

では、私も第一師団の様子を見てきます」

あきらめた未来は部屋を後にした。


to be continued

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