第二十三話「白銀の世界へ」


グランコクマに向かったタルタロスだったが

走行中に警告音が響いた。

「きゃあっ!」

「沈んじゃうの?」

タルタロスの急停止にナタリアは悲鳴を上げ

アニスも焦った。

「見てきます」

「俺も行く。

音機関の修理なら、多少手伝える」

そう言ってジェイドとガイが機関部へ向かった。

「ご主人様、ボクは泳げないですの」

水が苦手なミュウは不安そうで

未来とティアはこんな状況なのに

((かわいい!))

と思ってしまった。

「知ってるよ。大丈夫。

沈みやあしないって」

いつかの船上とは違い

ルークは優しそうに言った。

「機関部をやられましたが

ガイが応急措置をしてくれて

何とか動きそうです」

そう言ってジェイドが戻ってきた。

「措置は一時的なモンだ。

できればどこかの港で修理したいな」

「港ね…

タルタロスだから

マルクトの港でないとまずいわ」

「そうね、未来。

大佐

ここからだと停泊可能な港で一番近いのは

ケテルブルク港です」

「じゃあ、そこへ行こう。

いいだろジェイド」

「まあ…」

ティアとルークに確認されたジェイドは

メガネを押さえて返事をした。

まるでケテルブルク港に行くのを嫌がっているが

その気持ちを隠しているようだった。

「ジェイド、どうしたの?浮かない顔だけど…」

「未来…こちらへ」

そう言ってジェイドは未来の手を引く。

「え?ちょっと…」

未来は焦って他のメンバーを見たが

見送られるだけだった。

特にアニスはニヤニヤと笑っていた。


ジェイドに連れられて未来がやってきたのは

甲板だった。

「ジェイド、どうしたの?」

「すみません、無理矢理」

そこでようやくジェイドは

未来の腕から自分の手を離した。

するとジェイドの青い軍服に

ちらりちらりと白いものが降り落ちてきた。

「あ…雪…」

未来は空を見上げて喜んだ。

「雪は珍しいですか?」

「ええ、私はグランコクマの出身だから」

「そうでしたか」

そう言ったジェイドは

やっと笑顔になったと未来は思った。

「それで、さっきのことは…」

「ああ。話がそれましたね」

ジェイドはもう一度メガネを押さえた。

「実はケテルブルクは、私の故郷なんです」

「そうだったの?なら、どうして…」

故郷に帰るのに、何故渋る顔をするのか

未来にはわからなかった。

「そこで…たぶん、私は…

みっともない過去を晒してしまうでしょう」

「みっともない過去?それは…」

「おっ!こんなところにいたのか」

未来が言いかけた時、ガイが甲板に出てきた。

「邪魔しちまったみたいだな」

ガイは何故か苦い笑顔をした。

「え?そんなことは…」

「やあ、ガイ〜。感心しませんね」

ジェイドはいつもの調子に戻り

先ほどのさえない顔は消えた。

「そういうな。

機関部のことで

あんたに伝えたいことがあるんだ」

「そういうことでしたか。

仕方がない、戻りましょう」

二人は機関部に戻ろうとした。

「ああ。未来も冷えないうちに入れよ」

「あ、うん!ありがとう」

もう一度雪が降る空を見上げてから

未来は甲板を後にした。


まもなくして

ケテルブルク港にタルタロスは入港した。

「失礼。旅券と船籍を確認したい」

「私はマルクト帝国軍第一師団所属

未来中佐です」

「マルクト軍第三師団所属

ジェイド・カーティス大佐だ」

不審がるマルクト兵に

未来とジェイドは毅然と名乗った。

「し、失礼いたしました

しかしお二人はアクゼリュスで…」

やはりマルクトでも

アクゼリュスで未来達は亡くなっている

と思われているらしい。

「それにしては極秘事項だ」

「任務遂行中

船の機関部が故障したので立ち寄りました」

ジェイドと未来が歩くと

立ち並んでいたマルクト兵達が道を開けた。

「事情説明は知事のオズボーン子爵へ行う。

関内の臨検は自由にして構わない」

「了解しました。

街までご案内しましょうか?」

ジェイドの言葉に、マルクト兵は敬礼をする。

「いや、結構だ。

私はここ出身なのでな。

地理はわかっている」

「わかりました」

「へー、ジェイドってここの生まれなんだ」

兵士とのやり取りを見て、ルークは少し驚いた。

「まあ、ね」

ジェイドはまだ顔がさえなかった。

(どうしてかしら…過去って…)

未来は聞き損ねた疑問を抱えていた。

タルタロス修理を頼むためにも

ケテルブルクに急ぐことになった。


「いつも思うけど…

未来とジェイドが名乗る時って

かっこいいよな」

港で買ったコートを身に包んで

ルークが言い出した。

「そう?」

「軍人として当然ですよ」

しかし未来達は

『いつものことだ』

と思った。

「特に大佐と未来は上官だからね」

「きちんと挨拶せねば

部下にしめしがつかないだろ?」

「ふーん、そうなのか」

ティアとガイの説明にルークは納得したようだ。

「まぁ、おぼっちゃまには無理だね〜」

「あなたも貴族なのですから

そのくらい、たしなんでいただきたいですわ」

「うっ…」

アニスとナタリアに言われ

ルークは言葉が出なかった。

以前のルークならば、ここで

「うるせー」

などと言うはずだったが、こらえた。

「あれ?言い返さないの?」

「ルークは変わるのですって」

不思議そうなアニスにティアは短い説明をした。

「でも人の性格なんて

一朝一夕で変わるものじゃないし〜」

「ルークなりに思うところがあったのでしょう。

ま、今更な気もしますが」

「ジェイドにアニス。

僕はあなたの意見には素直に頷けませんね」

なおも厳しく言うアニスとジェイドの言葉を

イオン様は否定をした。

「ルークはもともと優しかった。

だけどそれを表に出す方法を

知らなかっただけなんです」

「私も導師の意見に賛同です」

イオン様と未来がルークに向けた言葉と視線は

優しかった。

「いいよ、イオンに未来…

これからの俺を見てくれればいいんだからさ」

ルークがそう言った時

ケテルブルクに到着した。



to be continued

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