第十九話「情報収集」


「おまえさんはルーク!?

いや…アッシュ…か?」

ベルケンドの第一音機関研究所の奥にいた研究者が

アッシュを見て、驚いた。

「はっ、スピノザ!

キムラスカの裏切り者が

まだぬけぬけとこの街に居るとはな…笑わせる」

「裏切り者ってどういうことですの?」

「こいつは、俺の誘拐に

一枚噛んでいやがったのさ」

スピノザと呼ばれた男を

アッシュはにらみつけた。

「まさか

フォミクリーの禁忌に手を出したのは…!」

「ジェイド。あんたの想像通りだ」

「ジェイド!死霊使いジェイド!」

焦ったジェイドを見て

スピノザはさらに驚いた。

そしてジェイドに非難されたスピノザは

自分の行いを正当化した。

「お前さんだってそうだろう!

ジェイド・バルフォア博士。

あんたはフォミクリーの生みの親じゃ!」

「なんですって?!」

「ジェイドがフォミクリーを?」

スピノザの言葉に

未来とアッシュ以外が驚いた。

「否定はしませんよ。

フォミクリーの原理を考案したのは私です」

みんなの視線を受けても

ジェイドはためらわずに言った。

「それでも、私は自分の罪を自覚してますよ。

だから禁忌としたのです」

まっすぐにスピノザを見たジェイドには

迷いがなかった。

「わ、わしはただ…

ヴァン様の仰った保管計画に協力しただけじゃ!」

そう言い残し、スピノザは逃げ出した。

「ジェイド…」

ティア達に、ジェイドが

フォミクリーを発案した張本人と知られてしまったのに

それを、見守るだけしかできなかった未来は

苦しかった。


スピノザに逃げられてしまったジェイド達は

仕方がなく第一音機関研究所を出た。

そこでアッシュは

「ワイヨン鏡窟に行く」

と言い出した。

「レプリカについて調べるつもりなのですね」

「確かあそこはキムラスカ領だから

マルクトは手をさせないわね」

「ええ。

ディストはマルクトの研究者ですから

逃げ込むにもいい場所なのでしょう。

それに、まあ色々と…」

ジェイドは気になる事がある様子だった。

「わかったわ、私もついていく」

未来は頷き

文句を言ったアニスも

イオン様に同行を頼まれた。

しかしガイはルークを迎えに行くと言う。

「確かに、本物のルークはこいつだろうさ。

けれど、俺の親友はあの馬鹿の方なんだよ」

アッシュを見て、きっぱりとガイは告げた。

「迎えに行くのは自由ですが

どうやってユリアシティへ戻るつもりですか?」

「タルタロスでは魔界に戻れないと思うわ」

「いや。

ダアトの北西にアラミス湧水洞って場所がある。

もしもレプリカが外殻大地へ戻ってくるなら

そこを通る筈だ」

魔界に戻れない

と思ったジェイドと未来だったが

アッシュはあきらめたように説明した。

「悪いな、アッシュ」

そう言ってガイは去って行き

アッシュはそれを見ることしかできなかった。

「ガイ…」

「おや、こちらのルークも

ガイがいなくなって寂しいようですね」

「アッシュもガイの幼馴染だろうから、当然よ」

そんなアッシュに未来は同情した。

「勝手に決めつけるな!

ワイヨン鏡窟へ急ぐぞ!」


ワイヨン鏡窟は海風が吹き込んで湿度が高く

未来達を不快にさせた。

イオン様は歩き出そうとしたが

「導師は戻れ。ついてこられると邪魔だ」

アッシュに止められてしまった。

「いいじゃない、アッシュ」

「戦えない奴を連れ歩いて、どうするんだ?」

未来はイオン様をかばったが

アッシュに一蹴された。

仕方がなくイオン様はタルタロスへ戻り

アッシュ、ジェイド、アニス、ナタリア、そして未来は

ワイヨン鏡窟の中を歩き始めた。


「ここは…」

「フォミクリーの研究施設のようですね。

廃棄されて久しいようですが…」

鏡窟の最奥には、大きな機械が待っていた。

「…なんだこいつは!?あり得ない!!」

機械を調べ始めたアッシュは

動揺を隠せなかった。

「どうしたのですか?」

「見ろ!

ヴァン達が研究中の最大レプリカ作成範囲だ」

アッシュはデータをジェイドに見せた。

「このオールドランドの十分の一はありますよ!」

「そんな大きなものを作って

どうするつもりなの?」

未来は

途方もない

と思いながら機械を覗き込み

「…採取保存した

レプリカ作成情報の一覧もあるわ!

これは、マルクト軍で廃棄した筈…!」

アッシュ以上に動揺し始めた。

「今は消滅したホドの住民の情報です。

やってくれましたね、ディスト…」

ジェイドは悔しそうに

かつての友の名を呼んだ。

「まさかホドを復活させようとしているのでは?」

三人の様子を見ていたナタリアが憶測し

気になったジェイドは

情報を持ち帰ることにした。

「結局わかったことって

総長がおっきなレプリカを作ろうとしてる

ってことだけ?」

難しい話に、アニスは頭を抱えた。

「それで十分だ」

アッシュはタルタロスへ歩き始めた。


一行がワイヨン鏡窟を出ようとした時だった。

「気をつけろ。何かいる」

「え!?」

アッシュの注意にナタリアが弓を構えると

巨大な魔物が現れた。

「化け物と呼ぶにふさわしいわね」

未来は短剣をとりだして言った。

「とうっ…くっ!」

アッシュは一番最初に斬りかかったが

すぐにケガをしてしまう。

「癒しの光よ!ヒール!!…きゃあ!」

ナタリアはアッシュに治癒術をかけるが

詠唱の直後に

魔物から出てきた小さなクラゲに狙われた。

「馬鹿!どいてろ!」

アッシュが慌ててクラゲを撃退した一方で

ジェイドと未来とアニスの三人は

魔物本体と戦っていた。

「えいや!」

アニスは巨大化させたトクナガで攻撃し

「はぁっ!」

未来は短剣を振りかざし、長い髪を揺らした。

「大地の咆哮!其は怒れる地竜の双牙!

未来にアニス!どいてください!」

ジェイドに言われた通りに二人がひくと

「グランドダッシャー!!」

詠唱を終えたジェイドの譜術が急所を狙い

魔物は倒れた。

「なんなの、今の!でかっ!キモっ!」

トクナガを元のサイズに戻したアニスが叫んだ。

「フォミクリー研究には

生物に悪影響を及ぼす薬品も多々使用します。

その影響かもしれませんね」

「それにしても…厄介だったわね」

短剣をしまった未来は愚痴をこぼした。

「アッシュ…あの

かばってくださって、ありがとう」

少し離れた場所で、ナタリアはお礼を言い

「い、行くぞ!」

アッシュは照れたように早歩きを始めた。

「あの二人って、結局どういう関係なの?」

「さあ…」

「私には相思相愛に見えるけれど…」

そんなアッシュを、三人が見ていた。


「おかえりな…」

タルタロスで待っていたイオン様が

嬉しそうに未来達に駆け寄った時

地面が揺れた。

「地震!?」

軍人である未来達は動揺しなかったが

「きゃ…!」

ナタリアはよろけてしまう。

しかしそんなナタリアを抱きとめる人がいた。

アッシュだった。

「あ、あの…ありがとう」

「前にもこんなことがあったな」

「そうですわ!

城から抜け出そうとして、窓から飛び降りて…」

ナタリアが嬉しそうに思い出した。

「今の地震

南ルグニカ地方が崩落したのかも知れない」

アッシュがそんなナタリアから離れて言った。

「そんな!何で!?」

「南ルグニカを支えていたセフィロトツリーを

ルークが消滅させたからな。

今まで他の地方のセフィロトで

かろうじて浮いていたが

そろそろ限界の筈だ」

驚いたアニスを横目に、アッシュが説明する。

「俺たちが導師をさらって

セフィロトの扉を開かせていたのを忘れたか?

ヴァンの奴は、そいつを動かしたんだよっ!」

なおも説明するアッシュは、苛立った。

「それならヴァンは

セフィロトを制御できるということになるわ」

「ならば彼の目的は…

さらなる外殻大地の崩落ですか?」

未来とジェイドは顔を見合わせて憶測した。

「そうみたいだな。

俺の聞いた話では

次はセントビナーの周辺が落ちるらしい」

そう言ったアッシュはタルタロスに乗ろうとした。

「どうするつもり?」

「後は俺一人でどうにかなる。

おまえらを故郷に帰してやる」

不思議に思った未来に

アッシュはそう言った。


to be continued

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