第十七話「魔界(クリフォト)」


「…ジェイド…」

崩落による揺れは収まり

ジェイドは未来から離れた。

未来達を守っていた

ティアの譜歌によって出来たフィールドも

役目を終えたと言わんばかりに消えた。


「ご主人様!よかったですの!」

しばらくしてルークの意識が戻ったらしく

ミュウが喜んだ。

「全員、無事なのね」

「父ちゃん…」

未来が全員の安否を確認していると

苦しそうな声が聞こえた。

見ると男の子が、沼に沈もうとしていた。

「今、助けますわ!」

ナタリアは走り寄ろうとしたが

間に合わず男の子は沼に消えた。

「くそっ!」

「そんな…」

ガイは地面を殴り、未来は絶句した。

すると再び地面が揺れ始めた。

「ここも、壊れちゃうの!?」

アニスが焦った。

「タルタロスに行きましょう」

「非常停止機能が働いているわ」

未来がタルタロスを見上げ

ジェイドが先頭をきって

みんながタルタロスの中に入った。


「なんとか動きそうですね」

船橋でジェイドがタルタロスの様子を確認し

未来達に教えた。

「不幸中の幸い、ね」

「ええ」

未来を見て、ジェイドが頷いた。

「西にユリアシティという街があります。

とにかくそこを目指しましょう」

「詳しいようですね。

この場を離れたら

ご説明をお願いしますよ」

ティアの提案にジェイドはそう言って

タルタロスを自動操縦に切り替えた。

「自動操縦ならここにいても仕方がないし

甲板で外の様子を見てみましょう!」

未来の言葉に全員が従って甲板へ向かった。


しかし外を見渡しても

紫色の沼があるだけだった。

「行けども行けども、何もないな」

ガイがこぼした。

「私達は地面から落ちてきた…

ということは、ここは地下?」

「ある意味ではね」

この世界に詳しそうなティアを見て

未来が聞くと

ティアは説明を始めた。


未来達の住む場所は

ここでは『外殻大地』と呼ばれている。

この魔界(クリフォト)から伸びる

『セフィロトツリー』

という柱に支えられている、空中大地である。

二千年前、オールドランドを

原因不明の障気が包んで

大地が汚染され始めた。

この時ユリアが、七つの預言を詠んで

滅亡から逃れ

地殻をセフィロトで浮上させる計画を発案した。


ティアは説明を終えると、ため息をついた。

「途方もない話だな」

ガイはつぶやき

「ええ。この話を知っているのは

ローレライ教団の詠師職以上と

魔界出身の者だけです」

イオン様はティアを見た。

「じゃあ、ティアは魔界の…?」

アニスの言う通り

ティアは魔界出身だから説明することができたのだ。

「とにかく僕たちは崩落した。

助かったのは、ティアの譜歌のおかげですね」

「譜歌…確かに

私達は助かったかもしれないけれど…」

未来はまだ、アクゼリュスが崩落したのが

信じられなかった。

(いや…信じたくないのかもしれない…)

未来は空…外殻大地を見た。

「何故こんなことになったのです?

話を聞く限り、アクゼリュスは

柱に支えられていたのでしょう?」

「それは…柱が消滅したからです」

ジェイドの問いかけに

イオン様は話しづらそうだった。

「どうしてですか?」

「まさか…」

未来がルークを見た。

それは他のみなも同じで

ルークは冷たい視線を受けた。

「お、俺は知らないぞ!

俺はただ障気を中和しようとしただけだ!」

「あなたは兄に騙されたのよ。

そして

アクゼリュスを支える柱を消してしまった」

「そんな!そんな筈は…」

なおも否定しようとするルークは

イオン様を見たが

イオン様は首を横に振った。

「ヴァンはあなたに

パッセージリングの傍に行くよう命じましたね。

柱はパッセージリングが作り出している。

だからティアの言う通りでしょう」

「せめてルークには

事前に相談してほしかったですね」

「そうね。

住民を避難させてからでも、よかったのに…」

ジェイドと未来は

今更なことを言わずにはいられなかった。

「お、俺が悪いってのか?」

ルークの言葉に、全員は

「そうだ」

と言わんばかりに沈黙した。

「俺は…俺は悪くねぇぞ!

だって師匠が言ったんだ…

そうだ、師匠がやれって!」

ルークは子供のように地団駄を踏んだ。

「俺は悪くねぇっ!俺は悪くねぇっ!!」

ルークの叫びが、甲板に響いた。

するとジェイドが、その場を去ろうとした。

「艦橋に戻ります。

ここにいると馬鹿な発言に苛々させられる」

ジェイドは振り返らずに、自動ドアを開けた。

「ルーク…」

未来はルークを見た。

ルークは泣きそうな顔をしていた。

「自らの罪を認めない人は…愚かだわ」

そう言った未来は

ジェイドに続いて

タルタロスの船内に入った。


「ジェイド…」

船橋に行こうとしたジェイドに追いつき

未来は名前を呼んだ。

「…未来…」

ジェイドも立ち止まり、未来の方を見た。

「あ、あの…さっきのは…ありがとう」

先ほどの抱擁を思い出して

未来は恥ずかしくて仕方がなかった。

(抱きしめてくれた…どうして?)

「未来」

恥ずかしくて下を向いた未来に

ジェイドは優しく声をかけた。

未来は顔をあげると

赤い瞳で見つめられた。

「私は…貴女のことが…」

「もう!最悪だよー!」

ジェイドが言いかけたときに

アニス達が続々と船内に入ってきた。

「あら、お二人で何をなさってましたの?」

ナタリアが不思議そうに二人を見つめ

「こんなところで、怪しいなー」

アニスも

今までのルークへの怒りがどこへいったのか

はしゃいだ。

「いえ…私達は…」

未来はなんと説明すべきかわからなかったが

「船橋へ行きましょう」

ジェイドは、未来に背を向けて

廊下を歩きだした。

「ジェイド!あの…」

「なんでもないです、忘れてください」

ジェイドは未来を振り返らずに言った。


to be continued

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