第十六話「アクゼリュス」


「こ…これは…」

「想像以上ですね」

アクゼリュスに着いたルークが絶句し

ジェイドも辺りを見渡しながら言った。

アクゼリュスは障気に包まれて

そこにいた人達は悲鳴をあげていた。

「あそこの人は…」

街の入口にうずくまっている人を見つけて

ナタリアと未来が駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「今癒します!ヒール!」

未来とナタリアが治癒術をかけたが

その人の様子は変わらなかった。

「お、おい、未来にナタリア。

汚ねぇからやめろよ。

伝染るかも知らないぞ」

「っ!!」

未来がルークの言葉に息をのんだ。

「何が汚いの?何が伝染するの?

馬鹿なこと、仰らないで!」

「そうよ!私達は救出に来たのよ?」

二人は声を荒げた。

「あんたたち、キムラスカ側から来たのかい?」

その時

ヘルメットをかぶった中年の男性が歩いてきた。

「あ…あの…」

「私は、キムラスカの王女ナタリアです」

ルークは言いよどんだが

ナタリアは安心させるように名乗った。

「ああ!グランツ謡将から話は聞いています。

自分は現場監督の者です」

男はお辞儀をした。

「グランツ謡将軍と救援隊は?」

「坑道…一番障気が濃い第14坑道の奥で

助けてくださってます」

ジェイドが聞くと、男はある坑道を指さした。

その坑道の入り口からは

濃い障気があふれていた。

「あの坑道へ行ってみましょう」

「ルーク!行くわよ!」

「あ…ああ…うん…」

ティアと未来の指図に

ルークは従うしかなかった。


「グランツ響長ですね!」

坑道に入ろうとしたティアに

神託の盾兵が駆け寄り

第七譜石を発見したと言う。

イオン様の頼みもあり

ティアは第七譜石の真偽を確かめに行った。


ティアが離脱したメンバーは

坑道の奥まで進んだ。

そこには動けなくて苦しんでいる人が数名いた。

「しっかりしてください。今助けますわ」

ここでも治癒術をかけるナタリアだったが

著しく効果は現れなかった。

「命を育む女神の抱擁…」

それでもあきらめずに未来は詠唱をした。

「なんとか避難できるくらいの体力は

回復しているはずです。

それにしても…」

ジェイドが

未来が癒した男の子を見てから立ち上がる。

「おかしい。先遣隊の姿がない」

そうジェイドがつぶやくと

地上から争う声が聞こえた。

「上の様子がおかしい。見てきます。

未来も一緒に来てください。

治癒術が必要になるかもしれません」

「わかった」

未来とジェイドは

早歩きで坑道を出ようとした。


「ごほごほ!」

「未来、大丈夫ですか?」

坑道の出口に向かう途中

咳きこんだ未来の顔を

ジェイドは心配そうに見た。

「大丈夫よ。

ちょっと障気を吸いすぎただけ…

私は和平…救援のためにここに来たのだから

これくらい…」

未来が言いかけた時、ティアが走ってきた。

「大佐!未来!」

「ティア!どうしたんです?」

ティアからは切迫した気持ちが伝わってきた。

「タルタロスを拿捕した神託の盾が

待ち伏せして

先遣隊を始末したようです」

「それで先遣隊の姿がなかったのね」

未来は納得したが

ティアの取り乱しの原因は他にもある気がした。

「やはり

アクゼリュスの救援を妨害するために…」

「いえ、彼らは私を連れ去るために

兄に命じられて停泊しているんです!

私は神託の盾にさらわれそうになりました」

「どうしてあなたが…」

「ティア、落ち着いて…」

ジェイドと未来は意味がわからなかった。

「兄が私を巻き込まないために

捕まえるよう指示したんです!!

兄はどこですか!」

「おい!

そんなところで喋っている暇があるなら

あの屑をどうにかしろ!死ぬぞ!」

坑道の中にいたコウモリをよけながら

アッシュが走ってきた。

「彼が、アッシュが教えてくれました。

間違いありません!兄さんは…」

ティアはアッシュを指さし、更に取り乱していく。

「兄さんは…

アクゼリュスを消滅させるつもりなんです!!」

「うそ…でしょ?!」

未来は全身が粟立つのを感じた。

「急ぎましょう!」

「ヴァンはきっと坑道の奥よ!!」

「間に合って!」

そう言って、いや叫んで三人は走り出した。

(どういうこと?どういうこと?!!)

未来も

ティアのように取り乱しそうになるのを

必死でこらえた。


未来達が

アッシュが進んだであろう

不思議な空間に飛び込んだ時

地面が大きく揺れた。

「離せ!俺もここで朽ちる!」

アッシュはグリフィンに捕らえられ

どこかに連れていかれようとしていた。

「兄さん!やっぱり裏切ったのね!

この外殻大地を存続させるって

言っていたじゃない!」

もう一羽のグリフィンに掴まったヴァンに

ティアが悲痛そうにヴァンに叫んだ。

「外殻大地?!」

未来はますます混乱する。

「これじゃあ、みんな死んでしまうわ」

「メシュティアリカ。

おまえにもいずれわかる筈だ。

この世の仕組みの愚かさと醜さが。

おまえには譜歌がある。それで…」

そこまで言って、ヴァンは去っていった。

「まずい!坑道が潰れます!」

「でも、逃げられない!!」

未来が言うように坑道はすでに潰れ始め

退路を断っていた。

「私の傍に!早く!」

クロア リュォ ズェ トゥエ リュォ レィ ネゥ リュォ ズェ

ティアがフーブラス川で歌ったのと同じ譜歌を歌い

全員がティアの元へ駆け寄った時

大きなフィールドができた。

そして、すごい衝撃で地面が崩れていく!!

「未来!!!」

ジェイドは未来のそばに駆け寄り

そのまま彼女を抱いた。

「あああ!」

足元がだんだん落ちていき

未来は悲鳴を上げて

ジェイドにしがみついた。


to be continued

前のお話 次のお話

TOPへ戻る

しおりを挟む