第十五話「ルークの異変と孤立」


砂漠を越えて、ようやくケセドニアに到着し

ジェイドの言葉通りに

マルクトの領事館へ向かった。

しかしルークが再び頭痛を起こして

念のため、宿で休むことになった。

「ルーク…

ちゃんとした医師に診てもらった方が

いいんじゃないかしら?」

よろけながらルークは歩いて

未来は隣にいるジェイドに聞いた。

「さあ、本人次第ですよね」

「でも!

マルクトが誘拐なんて、信じられないわ」

ルークに聞こえないように

未来はジェイドに言った。

「未来…

わからないことを考えても

始まりません」

そう言っている間に宿に着いたが

またしてもルークの頭痛が起きたようだ。

「黙れ!俺を操るな!」

そううめいて、ルークは剣をティアに向けた。

「ルーク!どうしたの!?」

「ち、ちが、う!体が勝手に…!

や、やめろっ!」

そこでルークの意識は途切れた。


「ルークの奴、どうなっちまったんだ?」

倒れたルークを

宿のベッドまで運んだガイは

心配で落ち着かなかった。

アニスは何かぶつぶつと言っていて

ナタリアは不審そうだった。

「大佐。

ルークのこと

何か思い当たる節があるんじゃないですか?」

「…そうですねぇ…今は言及を避けましょう」

「ジェイド!もったいぶるな」

しびれをきらしたように、ガイが声を荒げた。

「もったいぶってなどいませんよ。

ルークのことは

ルークが一番に知るべきだ

と思っているからです」

「ガイ…ジェイドを責めるのは、やめて。

仲間割れする時ではないでしょう?」

未来はジェイドをかばった。

「いや、そんなつもりはないのだが…」

ガイがそう言った時

「ご主人様が目を覚ましたですの」

「俺がどうしたって?」

ルークが意識を取り戻して

ベッドから起き上がった。

「何でもないわ。

まだ誰かに操られている感じはあるの?」

「いや…今は別に…」

未来に聞かれて、ルークは自分の手を見た。

「たぶん、コーラル城で

ディストが何かしたのでしょう。

あの馬鹿者を捕まえたら術を解かせます。

それまで辛抱してください」

「そう言えば、謎の譜業でなにかしてたわね」

未来はコーラル城での事を思い出した。

「頼むぜ、全く。

ところでイオンのことはどうするんだ?」

頭をかきながら、ルークはイオン様を見た。

「とりあえず今回のように

六神将にイオン様を奪われるのは

回避しないとね」

ティアの言葉に全員が頷いた。

「もしご迷惑でなければ

僕も連れて行ってもらえませんか?

僕はピオニー陛下から親書を託されました。

ですから陛下にはアクゼリュスの救出についても

お伝えしたいと思います」

イオン様は凛として言った。

「よろしいのではないですか」

「そうね。

どこにいても同じように狙われているなら

私達で守らなければ。

イオン様

アクゼリュスでの活動が終わりましたら

私とジェイドと一緒に

グランコクマへ行きましょう」

ジェイドと未来の言葉に、イオン様は喜んだ。


ルークの意識も戻ったことで

マルクトの領事館へ再度向かった。

そこで、ヴァンが先遣隊と一緒に

アクゼリュスへ向かったと聞いた。

「えーっ!師匠早すぎだよ!」

ルークは焦った。

早くヴァンと合流したいのだろう。

しかしその時、ガイが突然うずくまり

心配して近づいたルークを突き放した。

様子を見たジェイドとイオン様の話だと

『カースロット』

というダアト式譜術の一つらしい。

「私が治癒術を…」

「いいえ。

治癒術はカースロットには効きません」

ガイに手をかざそうとした未来を見て

イオン様は首を振った。

イオン様の話だと術者が近くにいるなら

威力を弱めるためにも

早くケセドニアを離れたほうがいいと言う。


ガイは痛みを抑えながら船に乗ったが

船の上で痛みがなくなり

すっきりとした様子だった。

ということは、やはり

カースロットの術者はケセドニアにいたらしい。


船から降りて

未来達はデオ峠を越えることになった。

「ちぇっ。師匠には追いつけそうにないな」

辺りを見渡して、ルークは舌打ちをし

「砂漠で寄り道なんかしなけりゃよかった」

イオン様を見て、いらついた。

「寄り道ってどういう意味…ですか」

アニスは珍しくルークに怒ろうとして

慌てて敬語を使った。

「寄り道は寄り道だろ。

今はイオンがいなくても

俺がいれば戦争は起きねーんだし」

「あんた…バカ?」

「バ、バカだと…!」

たまりかねたアニスが言葉を吐くと

ルークはさらにいらついた。

「ルーク。

私も今の発言は

思い上がった発言だと思うわ」

「この平和は、お父様とマルクトの皇帝が

導師に敬意を払っているから

成り立っていますのよ」

「イオン様がいなくては

調停役が存在しなくなるのよ!

だから導師には和平の証として

私達と一緒に来てもらったの」

ティア、ナタリア、未来が

ルークに抗議をした。

「いえ、本当は僕なんて必要ないんですよ」

しかしイオン様本人はうつむいた。

「そんな考え方には賛成できないな。

イオンには抑止力があるんだ」

ガイがなぐさめるように

イオン様の肩を軽く叩いた。

「なるほどなるほど。皆さん若いですね。

じゃ、そろそろ行きましょう」

それまで様子を見ていたジェイドは歩き出す。

「この状況でよくあーいうセリフが出るよな。

食えないおっさんだぜ」

「でもジェイドらしいわ」

未来もジェイドのあとを追いかけた。


「全くルーク様ってば…」

歩きながらアニスは

ルークに聞こえないようにもらした。

「さすがのアニスも腹が立ったでしょう」

アニスの隣を歩きながら未来が言った。

「そんなことないよ、未来〜。

アニスはルーク様…

の財産…のこと大好きだよ!」

「でも、あの発言は私も引いちゃったわ」

未来は、先ほどのルークを思い出した。

イオン様を守るべきアニスじゃなくても

あの言葉は批判をかうしかなかった。

「そうですね。

世間に疎いとは言え、さすがに失言でした。

いや、さすがの失言というべきか…」

ジェイドも先をずんずんと歩くルークを見て

つぶやいた。

「この話はもうお終い!

さあ、二人とも歩いて!」

アニスはジェイドと未来を並べて押し出した。

「あ、アニス!押さないで」

「はいはーい」

ジェイドと未来の肩が触れ合った。

「おい、おまえら!さっさと来いよ!」

ゆっくり話す未来達を、ルークは急がせた。


「はぁ…はぁ」

急な斜面超えたら

イオン様の息が上がってしまった。

「イオン様!」

「大丈夫ですか?少し休みましょうか?」

アニスとティアがイオン様に駆け寄った。

「いえ…僕は大丈夫です」

しかしイオン様はびっしょりと汗をかいていた。

「駄目ですよぅ!みんな、ちょっと休憩!」

「休むぅ?何言ってんだよ!」

先頭を歩いてたルークが傲慢そうに言った。

「キツイ山道だし仕方ないだろう?」

「このままだとイオン様は倒れてしまうわ」

ガイと未来でルークを説得したが

ルークは一歩も引かない。

「俺が行くって言えば行くんだよ!」

「ア、アンタねぇ!」

先ほどの失言もあり

アニスは怒りを抑えていた。

「では、少し休みましょう。

イオン様、よろしいですね?」

ジェイドの決定に

ルークは今日何度目かの舌打ちをした。


ルークはみんなから少し離れた場所で立っていて

ティアがなだめているようだった。

「ルークが、あんなことを言うなんて…」

婚約者であるナタリアも

ルークの態度にショックを隠し切れない。

「ヴァン謡将に追いつきたい気持ちは

わからなくもないが…」

「ガイはルークに優しすぎるわ」

「そうですね。甘やかしはよくありません」

ガイがフォローしようとしたが

未来とジェイドに止められた。

「すみません…僕のせいです」

やっと息が整ったイオン様が謝った。

「そんなことは…」

「おい、そろそろいいだろ?出発するぜ」

未来が言いかけた時

しびれをきらしたルークの声が聞こえた。

そのままルークは歩き出し

未来もイオン様の背に手をふれて

ついていくしかなかった。


デオ峠を抜けようとしたとき

ルークの足元に二弾発砲があった。

崖の上からリグレットが砲弾したのだ。

「止まれ!…ティア。

何故そんな奴らと

いつまでも行動を共にしている」

リグレットがティアを見下ろした。

「モース様のご命令です。

教官こそどうしてイオン様をさらって

セフィロトを回っているんですか!」

「人間の意志と自由を勝ち取るためだ。

この世界は預言によって狂っている。

誰かが変えなくてはならないのだ」

リグレットは脅すように

ティアの足元に砲弾した。

「ティア!私達と共に来なさい!

その出来損ないの傍から離れなさい」

「出来損ないって俺のことか!?」

リグレットに見つめられて言われたルークは

不服だった。

そしてそのルークの前に

槍を持ったジェイドが立った。

「…そうか。やはりおまえたちか!

禁忌の技術を復活させたのは!」

「ジェイド!いけません!

知らなければいいことも、世の中にはある」

すぐにでも攻撃できる構えのジェイドの言葉を

イオン様が止めた。

「イオン様…ご存じだったのか!」

ジェイドは驚いてイオン様に振り返った。

「な、なんだよ?

俺をおいてけぼりにして、話を進めるな!」

「誰の発案だ。ディストか!?」

出来損ないと言われ

怒り出したルークは説明を求めたが

ジェイドはリグレットを睨み付けた。

「フォミクリーのことか?知ってどうなる?」

未来はリグレットの言葉に過剰に反応した。

(フォミクリー?また…?)

「賽は投げられたのだ。死霊使いジェイド!」

リグレットは三度目の砲弾をし

ジェイドは槍でそれを受けた。

「くっ。冗談ではない!」

リグレットは立ち去り、ジェイドが怒鳴った。

「大佐…」

「珍しく本気で怒ってるわね?」

ジェイドの突然の怒りに

アニスと未来が

意外そうに心配そうに聞いた。

ジェイドは深呼吸をして、槍を腕に収納した。

「…失礼、取り乱しました。

もう…大丈夫です。

アクゼリュスへ急ぎましょう」

いつものように戻ったジェイドは歩き出した。

しかしルークは、いらだちが限界にきていた。

「どいつもないがしろにして!

何がなんだかわかんねーじゃんか!

俺は親善大使なんだぞ!」

「ルーク…」

未来が振り返ると

ミュウがルークをなだめているところだった。

それを未来が立ち止まって見ていたが

ジェイド達は気にせずに進んでいく。

ルークは完全に孤立していた。

(それにしても…フォミクリー…

まさか、ジェイドは…ルークは…!)

「…未来?」

「なんでもない」

未来は今よぎった予感を消すように

みんなのもとへ走り出した。


to be continued

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