第七十九話「大切な話と再会」


決戦が終わった翌日。

「ジェイド…大切な話ってなにかしら?」

グランコクマの一番大きな滝の前で

未来は恋人を待っていた。

ジェイドはまだ来ない。

「明日、大切なお話をしましょう」

とジェイドに言われ

落ち着かなかった未来が

約束の30分前に来たのだから

当然だ。

「お待たせしました」

「ジェイド…え?!」

待ち焦がれた声がして

未来は振り返ると、とても驚いた。

ジェイドはスーツを着ていたのだ。

初めて見るジェイドの正装に

未来はみとれてしまう。

「そんなに見られると、恥ずかしいですね」

「ご、ごめんなさい!

でもどうしてスーツなんか…」

いつもの調子で笑ったジェイドに

未来は慌てて目をそらした。

「言ったでしょう?

大切なお話があると」

そう言ったジェイドは

何かを取り出し、未来に差し出した。

「え?」

それは黒い小箱だった。

「開けてみてください」

未来は無言でうなずき

受け取った小箱を開いた。

中には大きなダイアモンドがついた

銀色の指輪が入っていた。

「ジェイド!これは…」

驚いた未来がジェイドを見ると

珍しく緊張した顔で

ジェイドはうなずいた。

「結婚してください、未来」

未来は時が止まったように感じた。

それほど驚いたのだ。

「え、えっと…

今すごく嬉しい言葉を

聞いた気がするけれど

滝のせいかしら?」

「おや。

プロポーズの場所をここにしたのは

間違いでしたか」

ジェイドは笑って

小箱から指輪を取り出した。

そのまま無言で指輪を

未来の細い左手の薬指にはめた。

「ジェイド…!」

未来の声が嬉し泣きでゆがむ。

「もう一度言います。

私と結婚してください。

貴女を一生離したくない」

優しいジェイドの声に

遂に未来は幸せな涙を流した。

「はい」

そう言うのが未来にはやっとだった。

ジェイドは安心し

そっと未来を抱きしめた。

未来が壊れないように優しく。

滝の音が二人を祝福しているように

辺りに響いていた。


三年後。

「おはようございます」

とある研究所に未来は入った。

「おはようございます、未来」

「今日は早いのじゃな」

そんな未来を迎えたのは

ディストとスピノザだった。

あれからジェイドと未来は

すぐに入籍し

未来は軍を辞めた。

ものすごく惜しまれたが

ジェイドと結婚するのだから

仕方がない。

そして今。

未来はジェイド、ディスト、スピノザと

フォミクリーの研究をしていた。

最初は未来を煙たがっていたディストだったが

「未来は優しいですね。

ネビリム先生のようです」

いつしかそう言って慕うようになった。

「だって今日は…」

「私が帰ってくるからですか?」

「ジェイド!」

夫の任務からの帰還に

未来は心からの笑顔になる。

「おかえりなさい!」

「ただいま帰りました」

そう言って笑いあう二人だったが

「私達、完全に忘れられていますね」

「いいのう、若い者は」

ディストとスピノザがそう言ってたことは

聞こえないふりをした。

「ところで一緒に行きたい場所があります」

そう言ったジェイドは

未来の手を半ば強引に引っ張った。


レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ

夜のタタル渓谷に

ティアの澄んだ歌声が響いた。

あの日戦ったルーク以外のメンバーと

イオン様とミュウは

渓谷から苔がすっかり生えてしまった

エルドラントを眺めていた。

実は今日はルークの成人の儀式が

バチカルで行われたのだが

ルークの無事の帰還を信じている未来達は

お墓に拝むなんてごめんだった。

「そろそろ帰りましょう。

夜の渓谷は危険です」

ジェイドはアルビオールへと歩き出し

「あら、私は久しぶりに戦いたいけれど」

未来も笑いながらついていく。

「未来らしいですね」

そんな未来にイオン様が笑った。

しかしティアだけは立ち止まったままだ。

「ティア?どうしたの…え?!」

未来はわが目を疑った。

月の光に照られて歩いてきたのは

ルークとアッシュだった。

「どうして…ここに?」

ティアの声が震えた。

「ここからならホドを見渡せる」

アッシュはエルドラントを見た。

「それに…約束してたからな」

ルークの優しい言葉に

ティアは大粒の涙を流す。

「ルーク!」

「アッシュ!」

ティアはルークに

ナタリアはアッシュに抱きついた。

「てぃ、ティア!」

「ナタリア!みんなが見ているぞ」

二人はそう言って照れたが

愛しい女性を離そうとしない。

「ご主人様〜!」

ミュウは嬉しそうに

抱き合うルーク達の周りを回った。

「全く三年もどこに行ってたのかしら」

「そうですね…それよりも…」

ジェイドは未来に微笑み

「さあ、未来!

式はいつにしましょうか?」

みんなに聞こえるように

少し大きな声でそう言った。

「し、式ぃ!?」

「未来達は入籍はしたんだが…」

「未来がルークが帰ってくるまで

式は挙げない!

って言ってたんだよね〜」

ルークにガイとアニスが説明した。

渓谷にみんなの笑い声が響いた。



to be continued

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