第十二話「姫様との合流」


翌朝のことだった…

「昨夜、緊急議会が招集され

あなたがたマルクト帝国と

和平条約を締結することで合意しました」

謁見の間で、未来とジェイドは呼び出され

そう報告を受けた。

また、アクゼリュスの救援も了承された。

(よかった…)

未来がジェイドを見ると

ジェイドは未来の心を見透かしたように

穏やかな顔で頷いた。

そこに、ルーク、ティア、モースが入ってきて

同じ報告を受け

ルークは

親善大使として任命されることになった。

最初は嫌がったルークだったが

昨日捕らえられたヴァン師匠が

解放されるなら…と引き受けた。

「ヴァンのこととなると、素直になりますね」

ジェイドが言ったことは

そこにいた全員の意見を代表していると

未来は思った。

インゴベルトは

この任務はルークでなければ意味がない

と言って

第六譜石を見せた。

「未来よ。

この譜石の下の方に記された預言を

詠んでみなさい」

「は、はい」

自分が詠むことになるとは思わなかったが

命令にそむくわけにはいかず

未来は指でなぞって、預言を詠み始めた。

清らかな声が、謁見の間に響く。

「ND2000。

ローレライの力を継ぐ者

キムラスカに誕生す

其は王族に連なる赤い髪の男児なり

名を聖なる焔の光と称す

彼はキムラスカ・ランバルディアを

新たな繁栄に導くだろう

ND2018。

ローレライの力を継ぐ若者

人々を引き連れ鉱山の街へと向かう

そこで…この先は欠けています」

そこで未来が指を離した。

未来が詠むことで光っていた第六詠石も

光が収まった。

(まるで、誰かが

未来は知るな

と言っているようだわ…)

未来は気になったが

ジェイドの隣へ戻った。

インゴベルト陛下は満足したように微笑み

ルークは選ばれた人間なのだと言う。

「それでは同行者は

私と未来と誰になりましょう?」

「ローレライ教団としては

ティアとヴァンを同行させたいと存じます」

「ルーク。

おまえはガイを世話係に連れて行くといい」

誰でもいいという態度のルークをしり目に

同行者が決まっていった。

ただし陛下の隣に座っていたナタリアだけは

同行は許されなかった。


ヴァンに会いに行くルークより先に

未来が城から出ると

ジェイドとガイが複雑な顔をして立っていた。

「いよいよね」

「そうですね…。

それよりも大切なお話があります」

「なに?」

ジェイドがこういうには

よっぽどのことがあるな

と未来は思い、緊張した。

「中央大海を

神託の盾の船が監視しているそうだ」

「え?それって…」

ガイの情報に未来は言いよどんだが

ジェイドが頷いた。

「大詠師派の妨害工作と思われます。

海は危険です。

そこで海へおとりの船を出港させて

我々は陸路でケセドニアへ行きましょう」

「なるほど。

ローテルロー海は

私達マルクトの制圧下にあるから

そこからカイツールへ向かうのも

可能ということね」

未来も納得し、頷いた。

「さすが、未来です」

そこにティアが城に向かって歩くように合流し

ルークとヴァンも城からでてきた。

ヴァンと一緒にいるルークは

とても嬉しそうだった。

モースの部下にあたるティアや

六神将が部下でもあるヴァンに説明するのは

気が引けたが

未来がジェイドの案を説明する。

「なるほど。では、こうしよう。

私がおとりの船に乗る。

それで信憑性も増すだろう」

「よろしいでしょう。

どのみち

あなたを信じるより他にはありません」

ジェイドはそう言ったが

不満がるルークをヴァンはなだめた。

「こちらは少人数の方が

目立たなくてすみます」

「そうね。

これ以上、同行者を増やすのは避けたいわ」

未来はメンバーを見て言った。

「未来と私で話を通しておきますので

街の出口で待っていて下さい」

そう言って、ジェイドと未来は

港へ向かった。


「早くアクゼリュスへ行って

救援をせねば、ね」

「未来、急いではいけませんよ」

港を後にして早足になる未来を

ジェイドが止めた。

「でも!」

「ルーク様ぁ!」

その時、アニスの声が聞こえた。

いや、響いた。

「アニス。

イオン様に付いていなくていいのですか?」

「今一番狙われているのは、イオン様よ」

ジェイドと未来が注意したが

「大佐に未来!

それが、朝起きたら

ベッドがもぬけの殻で…

街を捜したら

どこかのサーカス団みたいな人が

イオン様っぽい人と街の外へ行ったって…」

アニスは淡々と言った。

「サーカス団?まさか…」

「やられましたね。多分漆黒の翼の仕業だ」

「なんだと!?」

未来とジェイドの憶測に、ルークが驚く。

しかもアニスが言うには

追いかけようにも

街の出口にはシンクがいるらしい。

「なんとか、六神将に気づかれずに

街の外へ出られないかしら」

未来は悔しがった。

六神将に見つかったら、おとり作戦は失敗する。

「それなら、いい案がある」

しかしガイには

心当たりがある

と言うように頷いた。

旧市街にある工場跡へ行けば

見つからずにバチカルの外へ出られるらしい。

ガイを信じて、アニスと合流したメンバーで

天空客車に乗った。


暗い廃工場に着くと、ガイが説明を始めた。

バチカルは譜石の落下跡であり

奥へ進めば落下でできた自然の壁を

突き抜けられるはず、と言うのだ。

「なるほど。

工場跡なら、排水を流す施設があるのね」

「そういうこと」

未来とガイが頷き合った時だった。

「まあ、ガイ。あなた詳しいのね」

工場の中に新たな声が響いた。

「見つけましたわ」

そこには軽装のナタリアがいた。

「なんだおまえ。

そんなカッコで、どうしてこんなトコに…」

「決まってますわ。

宿敵同士が和平を結ぶという大事な時に

王女の私が出て行かなくてどうしますの」

「アホか、おまえ…」

一歩も譲ろうとしないナタリアに

ルークはため息を盛大についた。

「ナタリア様。城へお戻りになった方が…」

ガイも止めようとするが

ナタリアは強気だった。

「お黙りなさい!

私は治癒術の資格もあります。

その頭の悪そうな神託の盾や

不愛想な神託の盾

…それに冷血そうなマルクト兵より

役に立つはずですわ」

未来達一人一人を指さし

ナタリアは勝ち誇ったように笑った。

「呆れたお姫様だわ」

「正直な方なのね…」

指をさされたティアと未来が頭を抱えた。

「これは面白くなってきましたねぇ」

「だから女は怖いんだよ」

ジェイドはいつものように面白がり

ガイもうんざりという様子だった。

「何でもいいからついてくんな!」

「良いのですか?

あのことをばらしますわよ」

そこまでナタリアが言うと

ルークは少しみんなから離れて

焦ったようにナタリアとやり取りをした。

そして、なぜか指切りをした。

「指切り…お嫌いではなかったの?」

そんなナタリアの声が聞こえた。

「ナタリアに来てもらうことにした」

「よろしくお願いしますわ」

急に意見を変えたルークに

ティア達が異論を唱えた。

「う…うるせーなっ!

とにかく親善大使は俺だ!いいな!」

しかしルークは、そう言ってけん制し

「あ、そうですわ。

今後私に敬語はやめて下さい。

名前も呼び捨てること。

そうしないと

王女だとばれてしまうかも知れませんから」

ナタリアは満足そうだった。


仕方がなくナタリアと一緒に廃工場を歩く。

途中魔物と戦うことになり

ナタリアがすり傷をつけた。

「癒しの力よ!ファーストエイド!」

魔物を倒した後

未来はナタリアに治癒術をかけた。

「じ、自分で治せますのに」

しかしナタリアは不満だった。

「もう!王女ってバレたくないくせに…!」

それを見ていたアニスがイラついたが

「一番不幸なのは俺だぞ…」

ガイがうんざりという顔をした。

「お守り役は大変でしょうね」

「あんたは引き受けないって感じだな」

「ええ、謹んで辞退します」

なおも困り果てた様子のガイに

ジェイドはゆっくりと首を振った。

「そう言い切れるジェイドは大物だわ」

「一応最年長ですから」

この空気の中

面白がっているのはジェイドだけだった。


「なんか臭うな」

工場の中も、ずっと油の臭いはしたが

奥に進んだ時、臭いが濃厚になった。

「この工場が機能していた頃の名残かな?」

「それにしても…。

待って、音が聞こえる。

何かいるようよ」

未来が短剣を取り出し

ナタリアをのぞいた全員も警戒をした。

「まあ、なにも聞こえませんわよ」

「いえ…いますね。魔物か?」

空気が一瞬で張り詰めた。

しかし、なおも弓の準備をしないナタリアが

一歩前に出た。

「危ない!」

ティアがナタリアを突き飛ばした時

頭上から巨大なクモが降りてきた。

「うわっ!きたーっ!」

アニスの悲鳴を合図に、戦闘が始まる。

突き放されたままのナタリアに

クモはネガティブゲイトを放とうとした。

「ナタリア!!」

しかし一番ナタリアのそばにいた未来が

譜術障壁を出現させ、ナタリアを守った。

「未来…」

ナタリアは茫然とそれを見るしかなかった。

「燃え盛れ!紅き猛威よ!

イラプション!!」

ジェイドが一段階上の譜術で攻撃し

クモは音素が分解されて消えて

戦闘は終了した。

「この魔物は…」

「油を食料にしている内に

音素暴走による突然変異を

起こしたのかもしれませんね」

ジェイドが槍を腕にしまいながら

そう予測した。

「あ、あの。ティア。

それから未来…」

おずおずと声をかけたナタリアに

ティアと未来は不思議そうに彼女を見た。

「ありがとう、助かりましたわ。

あなた達にもみんなにも

迷惑をかけてしまいましたわね」

そう言ったナタリアからには

今までの傲慢な態度は消えていた。

「当然のことをしたまでよ」

「いいのよ」

「よくねぇよ。足ひっぱんなよ」

未来とティアは許そうとしたが

ルークは異を唱えた。

「ところで排水施設ってのは…」

ここへ来る発端者のガイに、未来は聞いた。

「下のほうじゃないかな…ん?

あれ…非常口だよな」

明かりが漏れている出口らしき物を

ガイは見つけた。

「調べてみましょう」

ジェイドがそう言って言葉通りに調べると

梯子が出てきて

ナタリアは先頭をきって外へ出た。

まさかこの後

運命的な衝撃が一行に降りかかるとは

誰も予想をしなかった。


to be continued

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