第七十四話「メリルとラルゴ」


テオドーロ市長は

ローレライの宝珠を解析してみると言い

ティアが珍しく

その間は自由時間にしないかと提案した。


「未来さーん!」

「ここにいましたか」

会議室を出た未来に

ミュウとジェイドが声をかけた。

「ジェイド…あの…」

未来はしどろもどろになる。

ミュウもいるがジェイドと二人きりになるのは

久々だった。

「どうしたのです?」

「レムの塔で力を使おうとして…ごめんなさい」

未来が謝ると、そんな彼女の頭を

ジェイドは優しく撫でた。

「ジェイド?」

「全く、貴女は無理をしすぎる。それに…」

それまでの笑顔がジェイドから消える。

「まだ考えてますね?

ルークの乖離を止められないか、と」

「そ、それは…」

図星な未来は何も言えなかった。

「シェリダンやイオン様の時とは違います。

仮に成功したとしても

今度は貴女が助からない」

ジェイドの赤い瞳の真っすぐな視線に

射貫かれたように未来は黙っていた。

「お願いです。

私から奪わないでください。

最愛の人である、貴女を」

「ジェイド…!」

ジェイドの心からの愛に

未来は泣きそうになる。

「こんなところでも見つめあって…

こういうのを『バカップル』って言うんだな」

そこにルークが笑いながら歩いてきた。

「る、ルーク!」

「はい、バカップルです」

未来は慌てるが

ジェイドは語尾にハートをつける。

「そ、それよりルーク…体の方は大丈夫なの?」

未来は慌てて話を逸らした。

「今のところは…

でもミュウとティアに知られちまったよ」

ミュウは首を垂れた。

「ティア…可哀そうに」

「うん…心配かけちまったなーって」

「ルークは鈍いですよねぇ」

しゅんとした未来とルークは

不思議そうにジェイドを見た。

「それとも

逆に意識しているから気付いてないのか。

それとも防衛本能ですかねぇ。

まあ、どちらでもいいですが」

そう言うジェイドは楽しそうだ。

「なんの話だよ」

「ティアに会ってきなさいと言うことよ」

未来はルークの背中を押した。

「?うん…」

不思議そうな顔をしながら

ルークは廊下を歩いて行った。

「未来もさすがに

二人の関係には気がつきましたか」

恋愛に疎すぎる未来に

ジェイドはそう言った。

「さすがに、ね。お似合いだもの」

未来は二人を微笑ましく思い

「おや、私達と同じですね」

ジェイドは再び語尾にハートをつける。

「も、もうっ…!

照れるとわかってて言ってるでしょ?」

未来の顔は真っ赤だ。

「ええ、もちろん。

それにしても

面白いほど貴女の顔は赤く染まりますね」

「二人はバカップルですの〜」

そんな未来にジェイドだけではなく

ミュウもからかった。

「ミュウ!変な言葉、覚えたらダメよ?」

未来は穴があったら入りたい気持ちになる。

(でもジェイドといたら

こういうのにも慣れちゃうのかな?)

今度は顔がにやけているのを

未来は自覚していた。


アブソーブゲートで

プラネットストームを止めることになった。

ルークはティアとナタリアを心配するが

「あー、私は?」

「ミュウもですの」

アニスとミュウはそう言った。

「あーあーあーあー。

わーかったよ!

みんな、準備はいいか」

面倒くさそうにルークは立ち上がる。

「「「「はーい」」」」

アニス、ガイ、ジェイド、未来の声が

きれいにそろった。

「ん?今、変なの混じってなかったか?」

ルークはジェイドを見たが

「まあまあ。

細かいことは気にせず、行きましょう」

ジェイドは笑うだけだった。


アブソーブゲートの最深へと進むと

そこにいたのはイオン様のレプリカと

アッシュと戦うラルゴだった。

リグレットや魔物と化したモースまでいる。

それだけではなく強い光と共に現れたのは

倒したはずのヴァンだった。

ローレライが分解した自分の体をつなぎとめ

そのローレライを取り込んだと言う。

ヴァン達は去って行き、ラルゴだけが残された。

ラルゴは戦いを覚悟していたのか

鎧を身にまとっていた。

「…ラルゴ。武器を収めませんか?」

ナタリアは説得を試みるが

ラルゴの意思は変わらず

戦いになってしまった。

ナタリアは弓を引き絞るが

その指は震えていた。

「ナタリア!ダメ!!」

そんな彼女の前に未来は立ち

体をはって止める。

「未来…」

ナタリアは弓をおろすしかない。

(何故親子で戦わなくてはならないの?)

未来がそう思った、その時。

「敵に背を向けるな!」

未来の背後からラルゴが襲ってきた。

「未来!」

「危ない!」

ガイとティアが叫んだが

未来はすぐに譜術障壁を出し

攻撃を防ぐ。

背を向けていても

いつでも攻撃できる構えでいたのを

ラルゴは気がつかなかった。

「ぐっ!」

「遅いわ!」

短剣を構えた未来に

「刃にさらなる力を!シャープネス!」

ナタリアが力を添える。

それがナタリアにできる

未来を助ける唯一の方法だった。

「鷹爪蹴撃!」

「エナジーブラスト!」

アニスの攻撃とジェイドの譜術で

ラルゴは膝をつき

「ラルゴ!こっちだ!通牙連破斬!」

ルークの剣が致命傷を負わせた。

しかし

「一緒に逝って貰おう!」

最後の力を振り絞り

ラルゴはルークに突撃した。

しかしその動きはすぐに止まる。

ナタリアの矢がラルゴを貫いたのだ。

「…いい腕だ…。メリル…大きくなったな…」

瀕死のラルゴはナタリアに笑い

「さらばだ…メリル…」

今度こそ倒れ、二度と動かなかった。

「…お父様っ…」

ナタリアの悲痛な声が、あたりに響いた。




to be continued

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