第十一話「バチカルの城」


城までの道を堂々と歩いたルークは

モースがいる謁見室へ強引に未来達を通した。

「隣にいるのが導師イオンと

マルクトのジェイドと未来です」

モースを退けたルークは

未来達をインゴベルト陛下に紹介していく。

「ご無沙汰しております、陛下。

イオンにございます」

「導師イオン…

お、お探ししておりましたぞ」

「モース。話は後にしましょう」

突然のイオン様の登場に

モースは焦った様子だったが

イオン様は冷静だった。

「陛下、こちらがピオニー九世陛下の名代

ジェイド・カーティス大佐と未来中佐です」

イオン様に紹介され

ジェイドと未来はひざまづいた。

「御前を失礼いたします」

胸に手を置いて未来は頭を下げる。

「我が君主より

偉大なるインゴベルト六世陛下に

親書を預かって参りました」

ジェイドがそう言うとアニスが親書を

控えていたアルバインに渡した。

「叔父上。

モースが言ってることは、でたらめだからな」

「な、何を言うか!」

自らの主張を否定され

モースは反論しようとしたが

「うるせっ!

戦争起こそうとしてやがるんだろうが!

おまえマジうぜーんだよ!」

ルークの幼いが権力を感じさせる発言に

モースも黙るしかなかった。

「ルーク、落ち着け。

こうして親書が届けられたのだ。

私とて、それを無視はせぬ」

インゴベルト陛下のその言葉に

未来は安心を得た。


一仕事を終えた一行だったが

イオン様の希望もあり

ルークの屋敷に立ち寄った。

インゴベルト陛下が言うには

ルークの母が倒れてしまったらしい。


ルークの屋敷に入ってすぐに

ファブレ公爵が歩いてきた。

ファブレ公爵は様子がおかしく、ティアに

「ヴァンとの共謀だったのではないか」

と言葉を残して城へと急いでいった。

「なんか変だったな、旦那様」

「ヴァン師匠が、どうしたんだろう…」

ガイとルークも

ファブレ公爵の言葉が気になるようだった。

「ルーク!」

その時、奥からきれいな女性が走ってきた。

「げ…ナタリア!」

ルークは露骨に嫌がった。

どうやら彼女が

キムラスカの王女・ナタリアのようだ。

嫌がるルークやガイに文句を言った後

ヴァンが

今回のルークを行方不明にした犯人ではないか

と疑わられているらしいと教える。

「それで私と共謀だと…」

「ファブレ公爵が様子がおかしかったのも

納得だわ」

「あら、そちらの方々は?」

ルークの後ろでつぶやいたティアと未来に

ナタリアはやっと気が付いたらしい。

「ルーク!

まさか使用人に

手をつけたのではありませんわよね!」

「使用人じゃねーよ!

師匠の妹に、マルクトの中佐だ」

ルークは慌てて否定した。

「ああ。

あなたが今回の騒動の張本人の…

ティアさんでしたかしら。

それに…」

「マルクト帝国軍第一師団所属未来中佐です」

未来は一礼をした。

「まあ、あなたが?」

ナタリアは未来の美しさに驚いた。

「んなことより、師匠はどうなっちまうんだ!」

「姫の話が本当なら

最悪処刑ということもあるのでは?」

「そんな…!」

ジェイドの指摘が、さらにルークの焦りを煽った。

ルークはナタリアに

ヴァンのことを陛下に頼むように言った。

「その代わり、あの約束

早く思い出して下さいませね」

「ガキの頃のプロポーズの言葉なんて

覚えてねっつーの!」

ルークの言葉に

アニスとティアが明らかにうろたえた。

どうやらルークはプロポーズの言葉も

忘れてしまったらしい。

しかしそれには気にせずナタリアは

ルークのためにも城へ戻った。

その歩く姿は美しく

その場にいた女性にあこがれを抱かせた。

「ナタリア様って綺麗な人」

「本当ね。可愛いドレスも似合うし」

ティアと未来がため息をついた。

「そうかあ?」

「それに、ティアと未来だって

綺麗じゃないか」

ルークは否定し、ガイは二人をフォローする。

「あ、ありがとう」

お世辞でも嬉しくなり

未来がガイに近づこうとしたが

ガイは震えて後ずさりをした。

「ごめんなさい、うっかりしてたわ」

「いや、こっちこそスマン」

慌てて未来はガイと距離を作った。

「おまえさ、さらっとそういうこと言うから

女に惚れられるんだよ」

「思ったことを言っただけなんだがなぁ」

「おや、それは困りましたね〜」

いつもの調子のルークとガイに

それまで黙っていたジェイドが反応した。

「うわっ、ジェイド…?!」

「なんでそんなに怒ってるんだ?」

「おかしいですね、私はいつも通りですよ?」

そう言ったジェイドだったが

ルークとガイはその場で凍り付いた。


ルークとティアが、ルークのお母様に会って

その場は解散することになり

イオン様、ジェイド、未来の三人は

バチカルの城へ戻った。

平和の使者として来た三人は

一人ずつ客室が用意されていた。

「では、私はこれで」

イオン様はそう言って、客室に入ろうとした。

「ゆっくり休んでください」

「おやすみなさい、イオン様」

ジェイドも未来も

微笑んでそんなイオン様を見送った。

パタン、とドアの閉まる音がして

城の広い廊下に

ジェイドと未来の二人だけが残された。

「お疲れ様でした、未来」

「ジェイドも、ね」

互いを労うように微笑みあう。

「緊張していましたね」

実は謁見の間で、未来の足は震えていたのだ。

「やっぱりバレていたのね。

インゴベルト陛下に会うなんて

初めてだったし」

弱点を見られた未来は苦笑した。

「私もハラハラしましたよ。

どこかのおぼっちゃまが暴走しないかとか」

「確かに、ルークがモースをけん制するのは

見ものだったわね」

未来は思い出して笑った。

「それより、未来ももう休むのですか?」

「ええ、明日までなにもすることがないし…」

部屋で短剣でも磨こうかと

色気のないことを未来は考えていた。

「それなら一緒に、少し外を歩きませんか?」

「え?」

「今なら、街の夜景が見えますよ」


「綺麗…」

未来は思わずつぶやいた。

ジェイドが言った通り

最上からの街の景色は絶景だった。

「天空客車からはもっと綺麗に見えるでしょうが

誰かさんは、苦手ですからね」

「もう、私はそんなに臆病じゃないわっ」

未来はごまかすように笑い

ジェイドもつられてように笑った。

「未来…これで私達の旅もひと段落ですね」

街を見下ろしながら

急にジェイドはまじめな顔になった。

「そう、ね…あとはアクゼリュスを救えば…」

ジェイドの急な変化に驚いたが

未来も遠い目をした。

「…」

一定の距離を置いて立った二人は

ただ黙っていた。

(なぜだ?)

(どうして?)

任務が完了するだけなのに

ジェイドも未来も寂しさを隠せなかった。

「…冷えてきましたね、部屋に戻りましょう」

しばらくの沈黙の後

ジェイドがなにかを振り切るかのように歩き出した。

「あっ…」

未来は名残惜しかったが

ジェイドに着いていった。


to be continued

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