第六十二話「ジェイドの嘘」


ルークの提案で

インゴベルト陛下に挨拶をすることにしたが

城の前でルークは困り始めた。

「ははは、馬鹿だなぁ。

お前は嘘が下手なんだから

正直に話しちまえよ」

「ガイ?!」

ガイはルークの背中をたたく。

「実はね、ナタリア。

こいつはピオニー陛下から

私的な手紙を預かってるんだ」

「まあ!」

「ルーク、いつの間に…」

ガイの説明にナタリアだけではなく

陛下と親しい未来も驚いた。

「あ、いや…その…」

しかし、ルークの目は泳いでいる。

「ならどうして、それを隠しますの?」

「実はここだけの話ですが

陛下はあなたを王妃にとご所望なんですよ」

「!!」

ジェイドの言葉にナタリアと未来は驚き

ルークはガイとジェイドに

強引に城内に運び込まれた。

それを面白がったアニスがティアの手を引いて

未来もそれに続こうとしたが

「未来!お待ちになって!」

ナタリアに止められた。

「未来は…私のそばにいてくれませんか?」

「ナタリア?」

「私…どうすればいいのか

わからなくて…」

ナタリアは恥ずかしそうにうつむいた。

「もちろん、いいわよ」

未来は微笑み

城の扉を開けるジェイドに

「あとで」

と口の動きだけで伝える。

ジェイドもうなずき、扉は閉まった。


鳥がさえずる中

ナタリアはしばらく黙っていた。

「ナタリア、大丈夫よ。

ピオニー陛下だって

あなたに好きな人がいると知れば

あきらめるわ」

そう言いながらも未来は

(まあ、きっとジェイドの嘘だろうけれど…)

とため息をつきたかった。

「そう、ですわね」

ナタリアは未来の言葉に

少し安心したように笑った。

「ありがとう、未来」

「いいのよ」

にこりと二人は笑いあう。

「ふふ。それより、未来こそ

大佐とは婚約しましたの?」

「婚約?!」

未来は自分でも驚くほど

大きな声を出してしまった。

「あら、そんなに驚かなくても…」

「お、驚くわよ」

未来は相変わらず

からかわれるのには慣れていない。

「その様子ではまだのようですわね。

ですが、考えてはいないわけでは

ないでしょう?」

「そんな…私はただ…

ジェイドのそばにいられたら…」

「嬉しいですね」

もごもごと未来がつぶやいていると

城の扉が開き、ジェイドが出てきた。

未来が焦ったのは言うまでもない。


「ええ?!」

アルビオールのハッチの近くで

未来は驚いた。

ナタリアに聞こえないように

陛下とのやり取りを

ジェイドが説明したのだ。

「声が大きいですよ?」

ジェイドは未来の唇に

自分の人差し指を押さえつけた。

「ごめんなさい…

でもあのラルゴが

ナタリアのお父様なんて…」

未来がラルゴとナタリアを比べても

共通点は全く思いつかない。

「ええ、私も驚きました」

「でも、それでは

親子で戦うことになるんじゃ…」

「それは避けられないでしょうね」

ジェイドがうなずいた。

「ナタリア…」

未来が思い出したのは

インゴベルト陛下が

ナタリアを娘と認めた時だった。

『お父様、私は…王女でなかったことより

お父様の娘でないことの方が…辛かった』

彼女は再び泣くことになるのだろうか。


to be continued

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