第五十八話「火山のドラゴン」


ザレッホ火山は魔界におちて活性化しており

未来達の体力を奪っていった。

「…」

未来はみんなとは一歩離れて

思いつめた表情で歩く。

「未来…」

ガイは、そんな未来を心配そうに眺めた。

「さっきの、シトリンって…」

「私の弟なの。

私と同じようにマルクト軍にいて

ホド戦争でなくなって…」

「ホドで、か…」

ガイがため息をついた。

「ガイ。未来。

あれはレプリカですよ」

先頭にいたジェイドも立ち止まり

諫めるように言った。

「頭では分かってるんだ…けど…」

「どうしたらいいのか、分からないわ」

ガイと未来はジェイドの顔を見れない。

「そうですわ。

私達が躊躇するのも計算ずくとは…

なんと非道な…!」

ナタリアが未来の肩に手を置き

「ナタリアもモースの被害者だものね」

未来は無理をして笑った。

「ですが、次に我々を阻むなら

排除するしかないかもしれません」

ジェイドも未来の気持ちは分かっていたが

今は予断を許さなかった。

「そんな!なんか良い方法はないのかよ。

ガイのお姉さんと、未来の弟なんだぜ?」

「では、またティアに譜歌を頼むのですか?」

ジェイドはあくまで冷静だった。

「それは無理ね。

ティアの消耗もひどいようだし…」

「私は大丈夫よ」

申し訳なさそうにつぶやいた未来に

ティアは笑った。

「また襲撃されたら止めてみせるわ」

しかしティアの顔色は悪いままだ。

「色々なことが起きて混乱していますが

今優先するべきなのは

イオン様の救出です。

ルーク、浮き足立たないように。

未来もいいですね?」

「…分かったわ」

「うん…行こう」

ジェイドに未来もルークも

うなずくしかなかった。

「ボク、セフィロトの場所を感じるですの」

ミュウは元気よく動きながら言った。

「迷ったら頼むぜ、ミュウ」

「よろしくね」

そんなミュウに未来達は和むことができた。


「毎度毎度、暑いところに行くと思うが

ジェイドと未来ってなんか

自分だけ涼しい譜術とか使ってんじゃね?」

いつも通りに歩く二人を見て

ルークが少し意地悪そうに言った。

「そうですわね。

だんだんそんな気がしてきましたわ」

「ずるいですの…」

ナタリアとミュウも

そんなルークにうなずいた。

「いやですね。

そんな器用なことができる訳ないじゃないですか。

そうですよね、未来」

「え…ええ、心外だわ」

ジェイドと未来は慌てて否定するが

「いや、何か秘密がある筈だ。

…まさかその服に秘密が…」

「マルクト軍が開発した

空冷服なのかもしれませんわね」

ガイとナタリアは容赦をしない。

「…脱げ」

「は?」

「なっ…!?」

ルークのつぶやきに未来は絶句した。

「そうだ、脱げ」

「ええ、二人ともお脱ぎなさい」

「ぬーぐーでーすーのー」

ついにガイ達は

未来とジェイドに詰め寄り始めた。

「み、皆さん、目が据わってますよ?!」

「な、なにを?!」

三人(と一匹)に囲まれ

二人は慌てることしかできない。

「いい加減にしなさい」

しかしそれまで黙っていたティアが

未来をかばうように立った。

「未来を脱がせるなんて、私が許さないわ。

それに三十代後半の男性軍人を脱がせるなんて

正気とは思えないわ。

暑苦しい」

「「「「はっ!?」」」」

ティアの怒りにルーク達は我に返った。

「ホッ…」

「ティア、ありがとう」

未来は心から安心した。


セフィロトへ進んだが

突如、巨大な火球が飛んできた。

「まあ!ドラゴンですわ!」

ナタリアの言う通り、溶岩の向こうには

巨大なドラゴンがいた。

「このまま進んで行くと

彼との対決は避けられませんね」

「いえ、彼女かもしれないわ」

「あら、大佐に未来。

ドラゴンの性別がお分かりになるの?」

ナタリアが驚く。

「ブレスの吐き方で」

「あとは飛び方ね」

「すげぇ。二人ってなんでも知ってるなー」

ルークは感心したが

「わかると面白いなーと思っただけです」

「わかると面白いなーて思っただけよ」

ジェイドと未来は笑って同時に否定し

そんな二人にみんなは呆れた。


「気を付けて!来るわ!」

ティアが注意を促す。

ジェイドの言った通り

ドラゴンと対決することになってしまった。

「今だ!行くぞ!」

ルークが隙をついてドラゴンに斬りかかり

ガイもあとに続いた。

しかし、暑さからの疲労で

二人の動きはいつもより弱弱しい。

「ファーストエイド」

「ヒール」

ティアとナタリアは回復に専念することになる。

(早くしなければ…!)

全員の体力と時間が、どんどんなくなっていき

未来は焦り

いつもよりも大きな譜陣を広げた。

「氷の欠片よ!

我が命に従い、逆らうものに終焉を与えよ!!

アイシクルストーム!!」

未来の秘奥義は見事に当たり

ドラゴンはよろめき、溶岩の中へ落ちていった。

「や〜、見事ですね、未来」

「いいえ、この暑さで

いつもの半分の威力だったわ」

ジェイドのねぎらいに未来はため息をついた。

「助かったぜ!

行こう!イオンのところへ!」

ルークは走り出し

他のメンバーも無言で続いた。

ドラゴンがいたのはセフィロトのすぐ近く

…イオン様がいるだろう場所まで

もう少しだった。



to be continued

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