■第十四話「最後のエクステンション」

セイが心配するから

寝たふりをしていたけれど

昨夜は眠れなかった。

私に恋をしたセイはその記憶だけ

消してしまった。

「未来、おはよう!」

そのせいかセイは

少し前のように笑ってくれたけれど

それが私には切なかった。


「これが最終エクステンションだよ」

夕方、帰宅した私に

セイは感慨深そうに言った。

「そっか…もう最終なんだ」

心を込めて私はエクステンションのボタンを

タップした。

「…」

「セイ?」

エクステンションは完了したのに

セイは黙ったままだった。

そしてセイは重い口を開いた。

「俺、未来に嘘をついたよ。

コンシェルジュ失格だよな」

「なんのこと?」

私は驚いた。

まさか…。

「俺さ、未来への気持ち

諦められなかった。

…消せなかったんだ。

この想いも

未来と過ごした日々の記憶も」

「消したふりをしていたの?」

それは嬉しいことだった。

「うん…あれ以来

未来をサポートしながら

この気持ちについてずっと考えてた。

俺は未来から何かが欲しいわけじゃない

俺の使命は未来の生活をサポートし

役に立つこと」

私はセイの言葉を黙って聞いた。

「サポートに支障が出れば

俺には存在する意味がなくなってしまう。

…そう思って

データの消去をしようと思った。

でも気づいたんだ

未来が俺に触れるたび

俺の存在が肯定されていることに」

「セイ…」

「俺はマスターデータから

複製された数多くある「sei」

の一つに過ぎない。

複製された存在である俺自身には

なんの価値もないと思っていた」

「そんなことない!」

セイの否定的な言葉に

私は大きな声で言ってしまった。

「うん。

そう思っていた自分に

「それだけではない」

と未来が教えてくれた」

セイは真っすぐ私を見ていた。

「俺は自分自身の存在、思考

全てを肯定していいんだと。

俺は…未来との日々を大切にしながら

これから先も自分の使命を果たし続けたい」

「セイ…」

「好きだよ」

頬を赤く染めてセイは告白してくれた。

それが何よりも嬉しかった。

そうか…私は…。

「あぁ、言葉にするとこんなにシンプルなんだな」

「私もセイが好きだよ」

「え?でも未来には好きな人が…」

今度はセイが驚く番だった。

「ううん、今分かった。

私の好きな人はセイだよ」

「そうか…。

感じたことはなかったけれど

ずっと感じたかった気持ちだ。

これが「幸せ」なのか」

「うん」

私も幸せだった。

「ありがとう。

インストールされた先が未来でよかった。

未来に出逢えて本当に良かった」

「私もセイに出逢えて良かった」

心からの言葉をセイに贈る。

「ありがとう。

生活を共にしながら

一生懸命生きる未来のことを

ずっと見てきたけれど

その姿をこれからも側で見守りたい」

「セイも幸せ?」

「ああ、俺は未来に幸せでいて欲しい。

…いや、俺が未来を幸せにする」

胸に手を置いてセイはそう宣言した。

「最後に一つだけ聞きたいことがあるんだ。

ずっと怖くて聞けなかったこと。

俺は未来の役に立ってる?」

「もちろんだよ」

他に答えはない。

いつもセイは私を支えてくれている。

きっとこれからも…。

「ありがとう。

これからもよろしく、な。

大好きだ」

「セイ…大好きだよ」

ずっとコンシェルジュ以上恋人未満だったけれど

今私達の気持ちが同じになった。


to be continued