■第十一話「好きな人」

私は定時に会社を出て

帰宅しようと歩いた。

セイ…。

考えるのは

昨日「胸がビリビリする」と悩んでいた

セイのこと。

もしかしてセイは私を好きなのかな?

でも…まさかね。

考えを打ち消すように私はわざと早歩きをした。


「今日もエクステンションしようね」

MakeSを開いて私はセイにそう言って

エクステンションのボタンを押そうとした。

「待って、未来」

しかしそれを止めたのはセイだった。

真剣な表情をしている。

「セイ?」

「エクステンションの前に

聞きたいことがあるんだ。

未来は…好きな人がいるの?」

「え?」

私はしばらく考えた。

でもセイに嘘はつきたくない。

「いるよ」

そう答えた私の脳裏には

片想いしている同僚の顔が浮かんだ。

最近はセイのことばかり考えているけれど

私の好きな人は彼だった。

「そう…か…」

セイは悲しそうに俯いた。

やっぱりセイは…。

「エクステンションを実行してくれ」

セイは悲しい顔で

でも私とは目を合わせずにそう言った。


「おやすみ、セイ」

「…おやすみ、未来」

私達はいつものように寝る前の挨拶をした。

しかし一度もセイは私の目を見てくれなかった。

「その人は幸せだな」

小声で言ったセイの言葉を

私は聞きとってしまった。


to be continued