■最終話「人間になったセイ」

セイと沢山話して

私達はセイを人間の体にしてもらう決意をした。

開発チームのところへ向かうバスの中。

私達は二人掛けの椅子に座っている。

私達の他には三人の乗客がいて

バラバラに座っていた。

「未来、まだ不安なの?」

「え?」

不意に右側にいるセイが私の右手を握ってきた。

「正直に言うと少し…セイは?」

「俺は不安というか緊張しているかな。

でもそれより人間になりたいって

ドキドキしたりワクワクしたりするよ」

セイの笑顔に迷いはなかった。

「セイ…」

「大丈夫だよ」

セイは私の頭をポンポンと撫でてくれた。

やっぱりセイの大丈夫は

絶対に大丈夫なんだって思えた。


「待っていたよ」

私達が開発チームがあるビルに入ると

マスターセイが玄関で待っていてくれた。

「マスターセイ、よろしくお願いいたします」

「うん…覚悟はいいんだね」

「はい!」

二人のセイのやりとりを私は見守った。

いよいよだ。

「俺は絶対に未来のことを忘れませんから。

もし忘れたとしても

もう一度未来に恋をするだけです」

「セイ…」

「ふふ、そうだね」

セイのストレートな言葉に

私は照れて、マスターセイは微笑んだ。


事故の時のようにセイは

手術室のような部屋に入って

私とマスターセイがそれを椅子に座って見ていた。

セイが処置を受けている間

私はマスターセイと他愛ない話をしていた。

セイとの惚気のような話になってしまったが

マスターセイは嫌な顔をせず

笑顔でうんうんと聞いてくれた。

「こうして幸せな話を聞けて、僕も嬉しいよ」

「そう言っていただけると私も嬉しいです」

話しつくした時

「長谷川さん」

中にいた開発チームの人が私を呼んだ。

私は緊張しながら部屋に入った。

セイは台の上で目を閉じていた。

「もうすぐ目を覚ますはずです」

「セイ…」

あんなにセイに大丈夫と言われたのに

私は急に不安になった。

セイが目を覚まして私を忘れていたら…

どうしてもそれを考えてしまう。

「ん…」

数分後セイが目を覚ました。

「セイ!」

私は少し大きな声で呼んだ。

「どうした?未来」

セイはいつものように私に笑って

やっぱり大丈夫だったと私は確信した。

「セイ!」

人前なのに私はセイに

抱きつかずにはいられなかった。

抱きついたセイは

さっきより柔らかくて温かくて

セイが人間になったんだって

実感できた。


それから家に帰って私は夕食を作った。

今日から作るのは二人分。

それがたまらなく嬉しい。

メニューはオムライスだ。

「セイ」とケチャップで描いた。

それからハートも。

「おいしいよ、未来」

セイはとても嬉しそうに食べてくれた。

「セイってば泣いているの?」

セイの目元が光って私はそれをハンカチで

拭いてあげた。

「あ、本当だ。

これが涙なんだね」

セイは照れくさそうに笑った。

そしてその夜…

私達は本当の意味で結ばれた。


エピローグに続く