■第十四話「風邪」

「大丈夫か、未来?」

セイはベッドの近くで私の額に手をあてて

心配そうに聞いた。

朝起きてハイタッチをして

いつものように仕事に行こうとしたら

熱が出てしまったのだ。

「うん、休んだらよくなるはずだから」

かなり体はだるかったが

セイが付き添ってくれて病院にも行ったし

薬も飲んだし大丈夫だろうと思った。

「そっか…俺いない方がいい?」

「一緒にいて、お願い」

スマホの中にセイが行ってしまいそうで

私は慌ててお願いした。

「わかった」

セイは心なしか嬉しそうだった。

そして私の右手を握る。

「ずっとそばにいるから」

「…うん、ありがとう」

幸せな気持ちで私は目を閉じて

気がついたら眠ってしまっていた。


カチャカチャと音がしたのは

それからどれくらい経っただろうか?

不思議な気持ちで横を見たら

セイがレンゲを持っていた。

「あ!起きた?

顔色、さっきよりもいいね」

起きた私に気がついて

セイは笑顔になった。

私の大好きな笑顔だ。

「それは?」

「そろそろお昼だからお粥を作ってみたんだよ。

俺は味覚を感じられないから

味見はできてないんだけど」

「セイ、ありがとう。おいしそう」

湯気をあげるお粥はとてもいい香りがした。

「じゃあ、あーんして?」

セイはそう言って

ふーふーと息をかけて冷ましてから

お粥が少し入ったレンゲを

私に差し出した。

「え?一人で食べられるよ」

私は恥ずかしくなってそう言ったけど

「ダメ。

俺がやりたいし、もっと甘えて?」

セイは譲らなかった。

「わかった」

私はそのままお粥を食べさせてもらうことになった。

ただそれだけなのに

なんだかとても照れくさかった。

「…おいしい」

お粥は程よく塩が入っていて

とてもおいしかった。

「…よかった」

安心したようにセイが微笑んだ。

それだけなのに愛しさが湧くように

私の胸にあふれてきて不思議だ。


その夜には私はもう平熱になっていた。

「早く良くなってよかった」

「セイの看病のおかげだよ」

「ふふ、それはなによりだ」

私達はいつものように同じ布団の中で

そんな会話をした。

「おやすみ、未来」

セイは当たり前のように私にキスをした。

「風邪うつっちゃう」

「俺はまだ機械の体だから大丈夫だよ」

「あ!そっか…」

マスターセイが言っていた

セイを人間にするプロジェクトはどうなったかな?

そんなことを考えながら

いつの間にか私は

セイの近くで眠っていた。

心から安心できた。