第二十八話「ただいま」


未来が亡くなってから一週間が経った。

ムードメーカーだった彼女がいなくなり

屋敷は静まり返ってしまった。


「ふう」

ぬらりは仕事をひと段落させ、ため息をついた。

妖怪市役所は混雑していて

いつ未来が帰ってくるのか分からなかった。

ぬらりは未来のことを考えないように

仕事に没頭していたが

やはり、ずきずきと無意識に胸が痛んだ。

「未来…」

名前を呼ぶのは何度目だろうか?

ぬらりは机の引き出しを開けた。

そこにはあの日

未来に渡そうと思っていた小箱があった。

「ぬらり!」

すると突然、待ち焦がれていた声がした。

「未来?」

待ちすぎて幻聴かと思ったが

未来はそこにいた。

その姿は、エンマ大王の命令通り

生前と変わらなかった。

しかし背中には真っ白な羽根がついていた。

「ただいま、ぬらり」

いつものように未来は笑った。

そこでぬらりは幻ではないと実感できた。

「未来!会いたかった!」

ぬらりは立ち上がり

書類が床に落ちたのも構わずに

未来のところへ行き、抱きしめた。

「私も会いたかったよ、ぬらり」

気がつけば二人とも泣いていた。

未来は変わらずにいい香りがするとぬらりは思った。

「私、妖怪になっちゃった。

でもね、嬉しい。

これでぬらりと同じだから」

「ああ!」

ぬらりはさらに強く、未来を抱きしめた。

「ぬらり、痛いよ」

「我慢しろ」

もう離れないように強く強く

ぬらりは抱きしめ続けた。


「未来…実は渡したいものがあるんだ」

しばらく抱き合った後に、ぬらりは言った。

そして先ほど眺めていた小箱を

引き出しから取り出し、未来に渡した。

「開けてみろ」

未来は言われるがまま小箱をあけた。

そこには指輪があった。

中心には大きなダイヤモンドがあり

その両端にはピンクの石もついていた。

「ぬらり、これって…」

「やっぱり自分で言いたくてな」

そう言ってぬらりは指輪を取り出し

未来の前でひざまずき

未来の左手の薬指に指輪をはめた。

「未来…結婚しよう」

心を込めてぬらりは言った。

「ぬらり!」

未来はまた泣いたが、それは幸せな涙だった。

「はい。ずっとそばにいてください」

そう未来が返事をすると

ぬらりは再び未来を抱きしめた。

今度は愛しむように優しく。

未来は指輪が光る手で、ぬらりに抱きついた。

そして誓い合うように二人は

口づけをした。


to be continued







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