「跡部さんのところのお坊っちゃんとは仲良くなった?」

「ぶは」



ある日の晩御飯中、突然祖母に訊ねられて思わず味噌汁を噴き出しそうになった



「い、いきなり何?おばあちゃん」

「孫のことを心配しちゃだめなの?」


私の様子を見て面白そうにクスクス笑いながら祖母は言った


「…まあ、思ってたほど嫌なやつじゃないかな」


ぶっきらぼうにそう言うと益々祖母は笑みを深めた


「あらあら…じゃあ大丈夫かしらねぇ」

「ん?何が?」

「おばあちゃん達ね、明日からしばらく旅行に行くことにしたのよ」

「えっ!あ、明日からっ!?どれぐらい!?」


いきなりのことに私が驚いて訊ねると


「んー…決めてないけど…」


祖母は隣で黙々と箸を進めていた祖父の方を見た


「…結構長旅になると思うわい」

「じゃあ…その間独り暮らし…?」


私が少し不安になって確認すると


「大丈夫よ、しばらく身を寄せさせてもらえるようにもう話はついてるから」


祖母は予想外のことを口にした


「えっ!ど、どこに?」

「うふふ…とりあえず食事が終わったら荷造りしてきなさいな、それから話すわ」


楽しそうに焦らす祖母に少し口を尖らせながらも夕食を済ませると私は自室へ向かい、荷造りを始めた








「おばあちゃーん用意できたけど?」


大きめのトランクを持って祖父母が待つリビングに行く


「あら、早かったわねぇ。もう大丈夫なの?」

「うん、片っ端から要るものは詰めたから」


私がVサインで大丈夫だとアピールすると、祖母は安心したように微笑んで立ち上がった


「じゃあ早速行きましょうか」

「え、どこに…」

「跡部さんのお宅よ」

「………はい?」


祖母の口から出た言葉に耳を疑った


「ほらほら、早くなさい?もうお迎えは来てるんだから」

「え、ちょ、どういうこと…っ!?」


戸惑う私の背中をグイグイ押して玄関にたどり着くと、そこには見るからに執事といった人物が待っていた


「お待ちいたしておりました、沙織様」


右手を胸に当てて軽くお辞儀をする執事さん


「えっと…」

「今日からお世話になります、斉藤と申します」

「あ、よろしくお願いします…」

「では、早速参りましょう」

「…え、あっ」


挨拶が済むと斉藤さんはパッと私のトランクを取り、外に出た


私が祖母の方に視線を向けると、祖母は楽しそうに手を合わせていた


「沙織、ご迷惑をお掛けしないようにね」

「帰ったら迎えに行くからな」



わ、私に拒否権はないのか…!


あれよあれよと周りに押しきられ、私は家の前に停められたリムジンに乗り込んだ


「いってらっしゃーい」


窓の外を見ると祖父母が楽しそうに手を振っている



くっ、人の気も知らないで…


力なく私が手を振り返したと同時にリムジンがゆっくりと動き出した











「では、今日からこの部屋で寝泊まりしていただきます」


訪れるのが二度目となった跡部邸は相も変わらず豪華で、私は落ち着かずにキョロキョロ辺りを見回していた


斎藤さんに案内されて、しばらく使わせてもらう部屋の前にやってきた


そして斎藤さんは扉を軽くノックして開けた



ん?何でノックする必要が…



「あーん?斉藤か、何の用だ…ってお前は?」


するとそこには跡部景吾の姿が


「夜分に失礼いたします。実はこの度しばらくの間沙織様にこちらで生活していただくことになりまして、その間この部屋で寝泊まりをしていただきますのでどうぞ宜しくお願い致します」


恭しく跡部景吾に頭を下げて説明する斎藤さんと、その説明を聞いて眉間に深いシワを寄せる跡部景吾


「あーん?客間はたくさんあるだろう?なぜ俺様の部屋でこいつが寝泊まりをするんだ」



…は?

跡部景吾の部屋!?


え、一緒に暮らすの…!!?



「申し訳ありません、決定事項ですので…それでは私はここで失礼いたします。沙織様、何かありましたらお気軽にお申し付けくださいませ」

「え、あ…はい」


そうして斎藤さんが出ていき、私たちは自然と二人きりになってしまった




…さて、どうしよう




「どういうことだ?」


見るからに不機嫌そうな跡部景吾が私に説明を求めてくる


「分からないわよ、私だっていきなり連れてこられたんだから…」



突然跡部邸で生活することになり、しかもなぜか跡部景吾と同じ部屋で寝泊まりしなきゃいけないなんて…


私たちは顔を見合わせて同時に溜め息をついた



The disturbing days have started.
(波乱の日々の幕開けだ)




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