跡部景吾から古典の教科書を借りた日から早くも1週間が経った


不覚にも奴に借りを作ってしまった


しかも意を決して教科書を返しにいったのに、跡部景吾の姿はなく、忍足くんに教科書を預けることになった


それから1度も会わずに今日に至る

何だか人を通して教科書を返すことになり、少し罪悪感のようなものが私の中にあった


そんな私は渡り廊下の掃除当番に当たっていて、サクッと掃除を済ませて教室へと帰ろうとしているところだった




パァーン…パァーン…



「ん?」


どこからかボールを打つ音が聞こえてきた


「あ、そっか…この渡り廊下、テニスコートに近いんだ」


その時ふとある人物の顔が浮かんだ


…いや、ないない


私は首をブンブンと左右に振りその人物を頭の中から追い出した

あれだ、教科書借りたこと考えてたからだ


「よし、帰ろう」


私が踵を返して足を踏み出したその時


「えっ…」


何かを踏んだらしく、ぐにゃっと足を捻らせて転んでしまった


「いったぁ…なによ…ってテニスボール?」


足元を探ると、そこにはテニスボールが


「っ!」


立ち上がろうとすると足首に鋭い痛みが走った


うーん、困った


立ち上がれずにへたりこんでいると、頭上から声がした


「おい、大丈夫か?」

「あ…」


見上げるとそこにはテニス部のジャージを身に纏った跡部景吾の姿が


「えらく派手に転んでただろう」

「みっ、見て…!?」


うわー…これは恥ずかしい

私が頭を抱えていると、跡部景吾は私の前にしゃがみこんだ


「…何してんの?」

「あーん?お前こそ何ボケッとしていやがる、早くおぶされ」


おぶされ?

ああ、おんぶしてくれるのか…

って


「えぇっ!?ななななんでっ」


どうしたコイツ頭でも打ったのか!?

あの俺様な跡部景吾がおんぶを申し出るとかあり得ない、うん、そうだよね


「ったく、よっと」

「えっ、きゃあ!?」


私が頭の中で自問自答をしているうちにしびれを切らした跡部景吾が無理矢理私をおぶった


「ちょっ…何してっ…離して!」


私は抵抗してじたばたと跡部景吾の背中で身じろぎする


「ばか、暴れるな」

「ばっ!?………ねぇアンタほんとに跡部景吾…?」

「…あーん?」


私が暴れるのを止めて訊ねると、奴は意味が分からねえとでも言いたそうに背後の私を見た


「だって、私の知ってる跡部景吾はこんなことしないもん」

「お前…俺のことなんだと思っていやがる」

「ボンボンの自己中俺様キング」

「…しばくぞ…ったく、とにかく保健室行くぞ」


よっと私をおぶり直して跡部景吾は歩き始めた


「わっ」


突然の揺れに私は慌てて奴にしがみついた


「しっかり掴まってろよ」

「…うん」



そうして私は保健室までの道程をコイツの背中に身を任せることになった







「よし、もう大丈夫だな」


結局保健室の中まで運んでもらって、私は保健医の先生に軽く足をテーピングしてもらった


その間も跡部景吾は私の側でその様子をじっと見ていて、治療が終わるとようやく保健室から出ていこうとした


「あっ…あ、のさ…」


私は椅子に座ったまま咄嗟に呼び止めてしまっていた


「あーん?」


顔だけ私の方を向け続きを促す跡部景吾


「その…ありがとね」


私が視線を外して小さく呟くと、ふっと小さく笑みを漏らした気配がした


「礼を言われるようなことじゃねえ。お前が転んだのはテニスボールのせいだからな、テニス部部長としてこれぐらいする責任があるってだけだ」


じゃあな、と後ろ手を挙げて跡部景吾は保健室から出ていった




……不覚



2つも奴に借りを作るなんて



それに…思ったよりも悪い奴じゃないのかもしれない…とか


そんな風に思わされるなんて


It is really a lack of care
(本当に、不覚)




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