「どうしたの?沙織ーなんか今日ずっとブスッとしてるよ?」

「んー…なんでもないよ?ちょっと人生の不条理さを嘆いてるだけ」

「えーなにそれっ」


跡部邸から帰宅した後、私は両親を問いただそうとしていたが家にはすでに両親の姿はなく



『ごめんねー沙織
私達もう向こうに戻らなきゃいけないのよ…
また日本に戻ってくるからそれまで元気でね!
PS.跡部景吾くんと仲良くね☆』



という置き手紙があっただけだった


結局のところ詳しい事情も分からずにモヤモヤとした気持ちだけが胸に残っていた

友達には言えるわけもなく、私は行き場のない憤りをもて余しているというわけよ



「あれ?古典の教科書忘れた…?」


とりあえず次の授業である古典の用意をしようと鞄の中を漁るも、古典の教科書が見当たらない


「えー!沙織今日当たるんじゃない?」

「…日付の出席番号当てる制度やめてほしい…ちょっと他のクラスで借りてくる!」



そうして私は教室を飛び出した



「ごめーん、うちも次古典なんだ」

「今日古典ないんだよね」



いくつかクラスを回ったものの、今日に限って教科書を貸してくれる人が見つからない

「あー時間ないよ…このクラスになかったら諦めよう…」


そう言ってクラスの扉を開くと…


「あーん?お前は…」

「うげ」



うそ…ここ跡部景吾のクラスだったの…!?



「何の用だ」

「別にアンタには用事はないもん」

「あーん?」


跡部景吾を軽くあしらいながら知り合いがいないかとクラスを見渡す


「んー…」


だが、休み時間で教室にいない生徒も多いようで仲の良い友人の姿はなかった


「どうかしたん?西園寺さん」

困った顔をしていたからか、跡部景吾の隣にいた眼鏡の男が声をかけてきた

「えっと…?」

「あぁ、俺は忍足侑士や。なんや探し物か?」


面識がないはずなのに急に名前を呼ばれて警戒した私に、忍足くんは自ら名乗ってくれた


「あ…実は次の授業古典なんだけど…教科書忘れちゃって」

「はっ、ありえねぇじゃねーの」


むかっ


忍足くんに事情を説明しているとそれを横で聞いていた跡部景吾が口を挟んできた


「うるさいなー昨日は色々考えてたから…あ」



そこまで言って私は口を滑らせたことに気付き口をつぐんだ



昨日のこと─つまりは跡部景吾のことを考えてただなんて、コイツには知られたくなかった



跡部景吾の方をチラリと見ると、奴は少し驚いたように目を見開いて、小さく息を吐いて立ち上がった


「な、なによ」


私は何となく気まずくて後退りをする

私の前に立った跡部景吾はバッと腕を振り上げ、私はとっさに目を瞑った



ぽんっ



「…へ?」


薄く目を開くと、跡部景吾が私の頭に古典の教科書を乗せていた


「教科書、いるんだろ?仕方ねえから俺様のを貸してやる。ありがたく受け取りな」

「え!い、いいって!アンタに借りる筋合いなんか無いから…っ」

「キャンキャンうるせえな、素直に受け取れねぇのか?あーん?」

「でも…」


キーンコーンカーンコーン


渋る私の言葉を遮るようにチャイムが鳴り響いた


「ほら、遅刻するぞ」

「わっ!やばいっ」


私はチャイムの音に慌てて教科書を受け取り跡部景吾のクラスから飛び出した


が、少しだけ教室の中を覗き込み


「……ありがと」


一言だけ、ぶっきらぼうにお礼を言ってから廊下を駆け出した




「ふーん、あれが跡部が言うてた西園寺さんか…なるほどな」

「…なんだ」

「いや?跡部相手にあんな態度取る子ぉ珍しいなあって思てな」

「ふん、ただの生意気なメス猫だ」

「はいはい…それにしても跡部が自分の教科書貸すなんてなぁ」

「…なんだ」

「いや、別に?」


含み笑いをする忍足を軽く睨みながら、跡部は沙織が出ていった扉にチラリと目をやった


You are not obedient.
(素直じゃないやつ)





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