跡部と気持ちが通じたその日、私は泣きつかれて眠ってしまった


ふわふわと体が浮かび、そっとベッドに横たえられたのを薄れていく意識の中でうっすらと感じ取って私は意識を手放した



深い眠りの最中、夢の世界で幼い頃の私と跡部が幸せそうに微笑み合っていた─…








目を覚ますと、目の前に私を見つめる跡部の瞳があった


「…目が覚めたか」

「うん…おはよ」


何だか照れ臭かったが、不思議と鼓動は落ち着いていた


「目が腫れてるな…ちゃんと冷やしとけよ」


跡部はそっと私の目元に指を伝わせる


「んっ…うん」


お互いに微笑み合い、くすぐったいような空気に包まれる





いつまでもそうしているわけにはいかないので、そっと体を起こしてそれぞれ身仕度を整える


斉藤さんに氷を用意してもらって赤らんだ目元を冷やしてから跡部の部屋を出た











「じゃあ、また後でね」


学校に着いて自分のクラスに向かおうとした私の腕を跡部が軽く引いた


「わっ」


バランスを崩した私は背中から跡部にもたれ掛かってしまった

そのまま後ろから軽く跡部に抱き締められ、どきっと胸が高鳴る


「あっ、跡部…ここ学校だよ?誰かに見られたら…」


モゴモゴと跡部に訴えるが、それを遮るように跡部は腕に力を込める


「構うか。……それより、今日の放課後…学校の裏手にある庭園に来い」

「え?」

「そういうことだ、忘れんなよ」


跡部は用件を伝えるとパッと私を解放した



不意に跡部の暖かさが離れ、少し物寂しく感じてしまう



「くっ、何だ?物足りねえって顔してるぞ」


すると、私の気持ちを見透かしたかのように跡部が喉を鳴らした


「ちっ、違うもん!」


私は顔を真っ赤にして逃げるように校舎の中に駆け込んだ







「はぁっ…もう、ビックリした…」


自分の席にドサッと腰を下ろして私は胸に手を当てた




『今日の放課後…学校の裏手にある庭園に来い』




気持ちを落ち着かせながら、さっきの跡部の言葉を頭に思い浮かべる





庭園─…


そこに何かあるのかな─…?













そして放課後になり、私は急いで約束の場所へと向かった


初めて足を踏み入れる、学校の裏手にある広大な庭園─…



あれ?何だか……



「似てるだろう?昔、よく一緒にいた庭園に…」

「跡部っ!」


謂れのない懐かしさを感じていると、背後から跡部に声をかけられた




そうか…─


似てるんだ、あの場所に…




すぅ、と深く息を吸い込んで空を仰ぐと幼い頃の自分達の無邪気な声が聞こえるような気がした


「こっちだ」


跡部はそんな私の手を引いて庭園の中心へと導いた


「跡部?」


跡部は私の手を離すと、私に向き合った


「手を出せ」

「手?」


跡部に言われて私は両手の平を跡部に差し出した


「ばーか、左手だよ」

「左手?」


左手と言われ、右手を下げると跡部は小さく笑った


「今も昔も、全然変わらねえなお前は」


そして柔らかい瞳で首を傾げる私を見つめると、跡部は私の左手を取り、静かに甲を上にした





『"こんやくゆびわ"は左手の薬指にするもんだって母上が言ってたからな。知らねえのか?あーん?』





「あ…─」


私は幼い頃の記憶と今が交差するような錯覚を覚えた


「あの時の指輪はもう小せえだろう」


跡部はそう言いながらポケットからキラキラと光る指輪を取り出して、私の左手の薬指にそっとはめた


「あ、とべ…─」


そして跡部は指輪がはめられた私の左手に自分の唇を添え、私の揺れる瞳を見つめながら口を開いた





「沙織、お前が好きだ。──俺様と結婚しやがれ」






その言葉が耳に届いたと同時に、ポロっと涙が頬を伝った






『沙織、お前がすきだ。大きくなったらおれ様とケッコンしやがれ』


『わたしも景ちゃんが大好きだよ。わたしを景ちゃんのお嫁さんにしてください』







「──私も、跡部が大好きだよ。私を跡部のお嫁さんにしてください」


涙を流しながらも、笑顔で応えるとふわりと跡部に抱き締められた


私もぎゅっと跡部の背中に手を回して抱き締め返す



そして腕の中で跡部を見上げると、パチッと目があって──



私たちは引き寄せられるように唇を重ねた





ようやく引き合わされた私たち





誰もいない庭園の真ん中で…お互いの気持ちを確かめるように、何度も何度もキスを繰り返した────



The end of a story.
(物語の結末)

title by...
夜風にまたがるニルバーナ



-fin-




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